TOKYO2020に欠けている「文化」
2021年08月07日
東京オリンピックは連日熱戦が続いているが、本来、スポーツとセットであるはずの「文化プログラム」の影は薄い。問題の多かった開会式も含め、「TOKYO2020」を文化政策の専門家が考える。
オリンピック憲章は、「オリンピズムの根本原則」を〈オリンピズムはスポーツを文化、 教育と融合させ、生き方の創造を探求するものである〉とし、大会組織委員会は〈少なくともオリンピック村の開村から閉村までの期間、文化イベントのプログラムを催すものとする〉と定めている。
例えば、2012年のロンドン五輪の文化プログラムは、ロンドン五輪終了時までの4年間で、英国全土1000カ所以上で、約11万7千のプログラム(音楽、演劇、ダンス、美術、文学、ファッション、映画、展示会、ワークショップ等)が展開された。アーティスト40464人(うち6160人が若手、806人が障害がある)がかかわり、総参加者は約4340万人にのぼった(Beatriz Garcia〈2013〉、London 2012 Cultural Olympiad Evaluation Final Report)。
プログラムは、まちなかでも展開された。
これは日本政府にも大きな影響を与えた。
2015年、文化庁は「文化プログラムの実施に向けた文化庁の基本構想」を発表した。そのなかで「異分野を巻き込んだオールジャパンによる推進体制」などの三つの方針と七つの戦略を示し、翌16年には、この基本構想を具体化するため「文化プログラムの実施に向けた文化庁の取組について」を策定・公表した。二つの文書にはいずれも「2020 年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機とした文化芸術立国の実現のために」という副題が付いている。
文化庁は文化プログラムに、次のような三つのカテゴリーを設け、全国の地方自治体などを対象に事業募集を行った。
① 「公認文化オリンピアード」(組織委員会や東京都、会場のある自治体、公式スポンサーなどが実施する文化芸術性の高い公式プログラム)
② 「応援文化オリンピアード」(会場所在地以外の自治体などがオリ・パラムーブメントを裾野まで広げる公式プログラム)
③ 「beyond2020プログラム」(営利・非営利を問わず多様な団体が実施するレガシー創出に資する文化プログラム。オリ・パラの文言は使えない)
さらに官邸の強い意向で「日本博」が追加された。総合テーマは「日本人と自然」で、日本固有の文化資源を再確認し、磨き上げることでインバウンド観光を加速することが目指された。予算45.3億円は観光庁が新設した出国税が財源とされた。
一方で東京都は2015年に、オリ・パラの開催やその先を見据えた芸術文化振興の基本指針となる「東京文化ビジョン」を定め「芸術文化の力で東京を変える取組を全国に広げ、文化が牽引する新たな日本をあらゆる人々の力を結集して創出する」と宣言した。
東京都と国が主導しながらTOKYO2020と同時に文化プログラムを全国津々浦々で開催し、芸術や文化の振興にとどまらず、クリエイティブな力を活かして各地域、各分野にイノベーションを誘発し、地域や組織等の活性化を目指す、とされた。文化プログラムは「文化芸術立国」への先導役として位置づけられ、全国の自治体も地域振興の観点から積極的に応募する機運が盛り上がった。
新型コロナウイルスのパンデミックによる五輪の1年延期で中止された文化プログラムもあるが、開催されたイベントも少なくない。これらは、当初うたわれた「文化芸術立国」への道筋を切り開いただろうか。
答えはノーである。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください