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「おかえりモネ」はダメ方向だった、けどこのままで終わる子じゃない

矢部万紀子 コラムニスト

 いいところを数えたら、片手にさえ余る。ダメなところ数えたら、両手でも足りない。と読んで、「あ、SACHIKOね、ばんばひろふみ、歌詞がちょっと違うけど」と思った方は、間違いなくアラ還(アラウンド還暦)以上だと思う。私もその1人(っていうか、60歳)なのだが、しみじみよくできた歌詞だ。

 いろいろなものが当てはまる。「我が人生」もそうだ。そして、現在進行形の朝ドラ「おかえりモネ」。8月6日に前半最終日を迎えたが、これまでの12週を振り返ると、いいところよりダメなところを数える方がたやすい。だけど、どうしても見捨てられない。

 夏木マリさんの登場が「どうだろう?」の始まりだった。ヒロインのモネこと百音が勤める森林組合の責任者で、山林地主のサヤカという役どころ。気仙沼沖の島出身のモネが高校を卒業、同じ宮城県ながら山深い登米市で就職する。引き受けるのが、祖父と縁のあるサヤカで、祖先は伊達藩とつながりがあり「姫」とも呼ばれている。で、金髪。

 夏木マリさんは、いるだけでメッセージを発する。「カッコいい女です」「毅然としてます」「年齢は誇りです」などなど。で、サヤカが実にそういう人として描かれるから、もう出てきただけでお腹いっぱい感。しかも金髪で、メッセージ性はいや増す。前半のキーパーソンとして言葉=含蓄なことも相まって、次第にごちそうさま感が募るのだ。

「おかえりモネ」にちなんで売り出されたお米のパック=2021年5月9日午前9時43分、宮城県気仙沼市「おかえりモネ」の舞台の一つである宮城県気仙沼市で、ドラマにちなんで売り出されたお米のパック

東日本大震災への思いが、なかなか描かれず……

 そして当のモネだが、演じる清原果耶さんの雰囲気そのままに、口数少なく、自分で自分をどうしたいのかわからない、そんな女子だ。妹(水産高校で研究に打ち込んでいる)や東京から通ってくる医師(比較的年齢が近い)のように、すでに道を見つけている人をまぶしく見ている。うん、そこから道を見つけて行くのが朝ドラだよ。モネを見守った。

 が、今日も見守り、明日も見守り、徐々に「ちょっと見守り時間、長いかも」という気持ちに。気象予報士になることはスタート前から告知されていたし、森林組合に気象予報士がやってくるなど、布石も打たれる。が、まとめるなら「モネは仕事に取り組み、少しずつ成長しています」。そういう話が続く。

 だからだろうか、SNS上の話題の中心は、坂口健太郎さん演じる菅波医師だった。東京と登米を行き来しながら、モネの気象予報士試験の勉強を見てくれる。理屈っぽく、ぶっきらぼうで、優しさまるわかり。そのままラブコメキャラだから、「モネとの恋」を皆が期待していた。

坂口健太郎さん=坂口健太郎さん=撮影・篠塚ようこ

 見守りに疲れた私も、坂口さんのカッコ良さをかみしめていた。彼は朝ドラ「とと姉ちゃん」(2016年)でもヒロインの恋人だったが、悲恋に終わった。植物を研究する学生役で「葉っぱの兄ちゃん」と呼ばれていた。そう呼んだのはヒロイン一家が間借りした先の主人で、それはピエール瀧さんだった。と、余計なというか、豆知識というか、そんなことを思う。要は気が散る事態に陥っていた。

 モネの東日本大震災への思いが、なかなか描かれない。それが大きかった。震災当日、島にいなかったモネは、複雑な感情を抱いている。予告編でもそう強調されていたのに、なかなか描かれない。

 その日、モネは高校受験の発表で父と仙台にいた。やっと島に帰り、避難所で妹や友人と再会した。その瞬間の不穏な雰囲気が、回想シーンから伝わってきた。だから「複雑な感情」はだいたい想像はつくが、

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