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Team 申の佐々木蔵之介 取材会レポート

中国の皇帝を演じる『君子無朋』京都公演、まもなく開幕

米満ゆうこ フリーライター


 佐々木蔵之介が主宰する演劇ユニットのTeam 申。番外編の朗読劇を含め、今まで7作品を手がけてきたが、今回、11年ぶりの本公演『君子無朋(くんしにともなし)~中国史上最も孤独な『暴君』雍正帝~』を上演している。18世紀の中国を舞台に、清の第5代皇帝である雍正帝を佐々木が演じる。Team 申は佐々木曰く、手作りの感覚で、お客さんの吐息や視線が分かるような緊密さで芝居を作れたらと始めた。「今、こんな時期ですけど、チャレンジできているのは幸せです。お客さんと芝居を作れるありがたみを、毎日ヒシヒシと感じています」という彼が、地元の京都公演を前に取材会で作品の思いを熱く語った。

何ともユニークな雍正帝に光を当てたい

拡大佐々木蔵之介=岸隆子 撮影

――テレビで雍正帝のドキュメンタリー番組(2020年放送)に出演したことがきっかけで、彼に興味を持ったそうですね。

 独裁者、暴君というくくりで中国へ行ったのですが、雍正帝の生涯をたどっていくうちに何ともユニークなこの人物のことを作品にできないかと思ったんです。その時のディレクターに「作品にしませんか」と北京で言って、帰国したらコロナ禍になりましたが、今上演しています。自分の企画だからこそ、このスピードでできたんですね。演じていて、300年前の中国の話だと思っていたのに、今のこの時代の話になったなと感じています。お客さんからもそういう感想が多いですね。

 舞台では中国の広大な土地をたった一つの執務室に置き換えようと考えました。これで世界を見せる芝居になればと。雍正帝は地方官との手紙のやり取りが残っているんです。この言葉こそ演劇にすれば絶対面白くなる、映像ではなく言葉なんだと。手紙の応酬がバトルみたいになっているシーンにしたんですが、体ではなく頭脳と集中力を使うので、そこが試されている感じで、見ごたえがある場面になっています。お客さんも楽しんでいるようです。

――今の時代とどこに共通点があるのでしょうか。

 雍正帝のお父さんは康熙帝といい、たった一代で国土を5倍くらいにした人なんです。モンゴルやチベット、台湾まで中国を広げた人ですが、大きく広げたことで、経済や民族問題を含めた色んな危機に直面しました。まさに、緊急事態でした。

――佐々木さんは、リチャード3世やマクベス、豊臣秀吉など暴君と呼ばれる人を演じてきましたが、今回はスケールが違うそうですね。

 全然、違いますね。中国とヨーロッパはほぼ同じ面積ですが、ヨーロッパは色々と国が分かれている。中国はすべてのことを一人が決める。この違い、この責任たるものの違いは今まで演じたことがなかったですね。一つの国のリーダー論みたいなものを、雍正帝を通して見ることができる。独裁者に自分を追い込んだ、彼の覚悟と孤高を感じます。自分で「君子無朋」とし、君子に朋や仲間はいらないと、人間関係を断ち切って、真っすぐに向かっていった。今、そういうリーダーもいたらなと思ったりもします。

――暴君ならではの共通点はありますか。

 スケールが違うからなぁ…。中国の皇帝の中で、最も口が悪く、最も勤勉で最もユニークで最も孤独な皇帝。リチャードやマクベスでは、どう玉座に座るかを演じてきたんですけど、玉座に座った後はそこを守ることしかやっていない。今回、雍正帝は玉座にどう座ったかもミステリーとして作っているんですが、座ってから何をしたかなんです。

 部下と毎日20時間、手紙のやり取りをして、大臣などはすっとばして、地方の末端の現場の人間とひたすら、今でいうメールのやりとりやテレワークをやっているわけです。滅茶苦茶数字に厳しい人なんですよ。数字にこだわって、叱咤激励を飛び越えて、クソバカ野郎などの罵詈雑言を使い、パワハラみたいなもんですね。赤ペン先生のようで、手紙にはチェックの朱筆がすごく残っているんです。後にそれを出版して、公に皆に読んでもらえるようにするんですが。でも、結局は人を信じて育てた。無能な大臣・官僚の首はバッサバサ切ったけど、現場の人間には辛抱強くダメ出しし続けた。だから違う種類の暴君ですね。

玉座に就く前は引きこもりのスーパーニート

拡大佐々木蔵之介=岸隆子 撮影

――なるほど、ユニークな人ですね。

 彼の日記を見ていたら、「今日は2LDKのベランダに出た」ぐらいで、ほとんど外には出なかったそうです(笑)。玉座に座らず、ほとんど部屋で仕事をしていたらしく、ずっと北京にいた。「雍正帝が行きましたよ」という所にドキュメンタリーで行ったのは、田んぼに雨が降って作物が実りますようにとお祈りする場所。お父さんは61年で1回しか行ってないのに、雍正帝は治世13年のうち、12回も行ったんです。自分は神、天の子だから、私がやるべきことは祈ることしかないと。自分がやるべき仕事や役割、覚悟をすごく持っている人なんですよね。

――舞台では玉座に就いてから13年を演じるのでしょうか。

 玉座に就いてから、おそらく死んだであろうという期間と、幼少のころの回想シーンがポツポツあります。そして13年、彼がなぜ皇帝になれたのか。玉座に就く前の45年間は、仕事をせずに本しか読んでない。引きこもりのスーパーニートで、世界中の本を読んでいた。大量の知識を得たからこそ、破格の仕事ができた。劇中で「経験はない」と断言します。経験ではなく、「歴史」から学ぶのだと。経験だったら、確かに自分が経験したことからしか頼れない。

 例えば、過去に疫病が流行った時はこうだったと、彼は本を読んで知っているんです。過去の歴史を学んで、それがスピード感と独創につながった。舞台では、皇子はたくさんいるのに、雍正帝がなんで皇帝になれたかというミステリーにもなっています。そこも軸で、お客さまから見事にオセロを返してくれたと言われました。

――佐々木さんは中国劇は初めてだそうですが、その面白さは?

 まず、特筆すべきは弁髪です。中国劇をやるのは自分でも想像していなかったんですが、去年、大河ドラマで豊臣秀吉をやった時に、床山さんに「どうなりますか?」とずっと相談していて。今は弁髪やってます(笑)。髪は腰辺りまでありますね。前に垂れた時に、どう直すか。所作とか知らないし(笑)。皇帝があんまり気にしすぎるのも変やし……どうするのかなと分からないままにやっていますけど(笑)。お客さんも初めは弁髪が気になると思いますが、慣れてきて、普通に見られると思いますので、楽しんでください。

――役柄と重なるところは?

 ないっ(一同笑)。皇帝と…、ないですね。雍正帝は酒も飲んだし、美味しいものが好きだった。そこは同じですかね(笑)。

率先してやることは率先してセリフを間違える

拡大佐々木蔵之介=岸隆子 撮影

――佐々木さんも雍正帝のように、後輩を指導することがあるのでは?

 皇帝だから許されたパワハラだと思っています(笑)。私は後輩を指導できる立場ではないです。例えば、今回のTeam 申で座長となった場合に、率先してやっていることは、率先してセリフを間違うこと(笑)。セリフを間違えないように固めて押さえて及第点を取るようにするよりも、ミスっても間違えてもいいから冒険する方が生まれるものがあると思うんですよね。僕が間違えないように抑えた演技をしてたら、周りも置いていくつまらない芝居になります。皆が自由に余計な緊張感を持たずに現場で面白く、愉快な芝居が作れたらと。完璧を目指すけど、完璧にはしない。ま、実際できないんですけど(笑)。常に挑戦して失敗したほうが、そこから得るものは大きいと思います。

――それでは、雍正帝から学んだことは?

 彼の覚悟には学ぶべきことがあったなぁと。皇帝には父も母も兄弟もいない。友もいらない。皇帝には国しかない、民しかいないと。すべて切り捨てる。13年間、己の命を注ぐ。僕はそんな究極のリーダーになることはないし、皇帝に共感することもないと思っていたんです。でも、彼の気持ちが僅かだけど分かるような気もして。とてつもなく孤独だったろうな、と。天の子だから人ではないと言い切っている、彼のつらさみたいな。一人の人間だったんですよね。雍正帝を演じないとその思いには及びもつかなかっただろうと。

――なぜ、雍正帝は腹心や信頼できる部下を置かなかったのでしょうか。

 近くにそういう人がいると鈍ると思ったんですかね、現場とやるぞと。でもその現場を一律に厳しくしたのではなく、それぞれの個性を考えながらやっていたんです。そこも分かって育て上げた。非常に厳しかったかもしれないけど、人に対して優しさを持っていた人物だと思いますね。友や部下を持たないことを貫き、今までの制度を変えるのは大変だったと思いますが、覚悟を持ってやった。なかなかできることではないですよね。

――中国でも雍正帝はあまり知られていないそうですね。

 僕も知らなくて、番組で行く前にディレクターに京大教授で歴史学者の宮崎市定さんの本を渡されまして。眠れない晩に飲んでて、夜中の1時ぐらいにふと本を広げたら「まず、地図を広げなさい、紫禁城はどこにあるか」と書いてあって、それがものすごく面白くて。学術書のようではなく、途中から声に出して読みたくなるんです。

 宮崎さんは京都で、雍正帝と地方官とのやりとりの手紙を研究し本を書き上げた。それが中国に逆輸入され、中国でも雍正帝が見直されたそうです。僕もぜひ、このユニークな人に光を当てたい、こんな人いたんやでというのを伝えたいと思ったのがきっかけです。彼のことを深く知れて、作品を作れて良かったなと思います。宮崎さんが京都で出会い、僕の地元の京都で公演できるのは、これもご縁かなと思っています。

――公演が楽しみです。

 中国の歴史ですごく難しいと思わなくていいんです。知識ゼロでいいんです。前半はずっと笑ってもらいながら、芝居が続きます。Team 申は愉快な芝居を目指しています。一緒に楽しんでいただければ。劇場でお待ちしています。

◆公演情報◆
Team申 第5回本公演
『君子無朋』
~中国史上最も孤独な「暴君」雍正帝~
2021年8月17日(火) ~ 2021年8月29日(日)  京都府立文化芸術会館
公式ホームページ
[スタッフ]
作:阿部修英
演出:東憲司
[出演]
佐々木蔵之介、中村蒼
奥田達士、石原由宇、河内大和

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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