世界は女性の「生きづらさ」ではち切れそうだ
2021年08月20日
多くの当事者の「生の声」をもとに、妊娠と出産に向き合う様々な男女を描いた演劇『丘の上、ねむのき産婦人科』が公演中だ。同じ戯曲を「女性役を女優が、男性役を男優が演じる」Aキャストと、「女性役を男優が、男性役を女優が演じる」Bキャストの2通り上演する試みもしている。この創作を通して何を考えたのか、作・演出の谷賢一さんがつづる。
最近ケンカが多すぎる。
炎上、謝罪、クレーム、キャンセルカルチャー。
もちろん、間違いはきちんと批判するべきだ。あやまちをおかしたら、ちゃんと謝ることも必要だ。でも、自分と意見の違う相手を攻撃するだけの尖った言葉の応酬は分断と憎しみを生むばかりだ。相手を引きずり下ろすことより、相手の視点に立つことが大事じゃないか。
新作の舞台は産婦人科、妊娠中のエピソード集に決めた。
テーマは「異なる性/生を想像する」。
女性の声を女性が書いて発表するのはもちろん大事だ。しかし男性が女性の視点から世界を見てみることをしなければ、世の中は変わらないと最近気づいた。
私も含めて世の男性は自覚が薄いかもしれないが、男性はこの社会のマジョリティ、強者、あるいは受益者側であることが多い。男性が女性たちの直面している問題や生きづらさを理解しなければ社会は変わらない。
相手の視点に立つ、そのために演劇は極めて有効なツールとなる。
役とせりふを得ることで、私たちは1945年8月6日の広島市民の気持ちや、1950年代のルイジアナ州の自動車修理工の気持ち、あるいは紀元前5世紀のギリシャの王様の気持ちにもなろうとする。わかろうとする。
演じるとはその人の視点に立つことだ。
創作の始まりはまず実際の声に耳を傾けること。
取材を始めたら、二十数名聞いたところでパンクしてしまった。フェミニズムの標語の一つ「一人一派」ではないけれど、一人一人の体験、一つ一つのエピソードに全く違うドラマがあまりにも濃厚に流れていて「これは題材が多すぎて逆に困りそう」と気づいた。
30人、計60~70時間程度のインタビューで私は完全にパンクした。世界は女性の生きづらさで張り裂けそうになっている。
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