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男性作家「妊娠・出産」の演劇を作る【下】

女性が男を、男性が女を演じて見えた世界

谷 賢一 劇作家・演出家・翻訳家

 妊娠と出産をめぐる演劇『丘の上、ねむのき産婦人科』を作・演出した谷賢一さんの論考の後編です(前編はこちら)。今回は女性と男性が「役」を入れ替えて演じることを通じての「発見」を中心につづります。

カップルの「相手」を演じてみたら

 台本を書く際にも現実の声に耳を傾け様々な視点に立つよう努力したつもりだが、さらに「異なる性/生を想像する」ため上演時には一つの趣向を凝らした。

拡大『丘の上、ねむのき産婦人科』Bキャストの一場面=photo by bozzo
 「女性が女性・男性が男性を演じるAキャストバージョン」と「女性が男性・男性が女性を演じるBキャストバージョン」、2種類を作ることにした。両バージョンを交互に上演するのだ。

 7組のカップルの話がメインになるので、男女入れ替えの際には自分の相手役を演じることにした。つまりある場面で妻役を演じていた女性の俳優が、男女入れ替えバージョンでは夫役を演じる。もともと相手役だった人物を演じ、自分がやっていた人物が相手役になるわけだ。

 もともとの相手役を演じるのはランダムに入れ替えるよりも発見が多いだろうと思ったし、同じ場面を一緒に何度も稽古しているのだから理解が早く稽古もスムーズだろうと考えた。

 しかし実際に男女を入れ替えて稽古してみると、恐ろしく複雑な視点と認識の話が見えてきた。

 台詞は入っているし動きも段取りもわかっている、演出やきっかけも把握済み。しかし全く違う。全く違うものを演じているように見える。

 あるカップルではこんなことが起こった。

 男女入れ替えてみると、男役は妙にチャラチャラと軽薄に、いわば無責任に演じられ、女役は妙に感情的・ヒステリック・情緒不安定に演じられた。目の前で相手役の演技をずっと見ていたはずなのに何故こんなに違う?

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筆者

谷 賢一

谷 賢一(たに・けんいち) 劇作家・演出家・翻訳家

1982年、福島県生まれ、千葉県柏市育ち。劇団DULL-COLORED POP主宰。明治大学と英国ケント大学で演劇学を学ぶ。2013年、翻訳・演出した『最後の精神分析』で第6回小田島雄志翻訳戯曲賞、文化庁芸術祭優秀賞を受賞。18~19年、原発事故をテーマに福島の半世紀を描いた「福島3部作」を作・演出。20年に第2部『1986年:メビウスの輪』で鶴屋南北戯曲賞、3部作で岸田國士戯曲賞を受けた。近作に、新国立劇場『白蟻の巣』、東京芸術劇場『エブリ・ブリリアント・シング』(翻訳・演出)、ホリプロ『17 AGAIN』(翻訳・演出)、神奈川芸術劇場『人類史』(作・演出)、PARCO『チョコレートドーナツ』(翻案・脚本)など。脚本や演出補としてシルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレら海外演出家とのコラボレーションも多い。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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