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男性作家「妊娠・出産」の演劇を作る【下】

女性が男を、男性が女を演じて見えた世界

谷 賢一 劇作家・演出家・翻訳家

相手の目にはこう映っているのか!

 最初は理解不能だったが、すぐその理由に行き着いた。この二人の俳優は男女入れ替えた際に、もともとの自分の役の目に見えていた相手役をコピーしていたのだ。つまり女性の俳優には男性がチャラチャラ軽薄・無責任に見えていたからそう演じたし、男性の俳優には女性が感情的・ヒステリック・情緒不安定に見えていた。だから、そう演じた。

拡大『丘の上、ねむのき産婦人科』Bキャストが演じる低収入の若いカップル=photo by bozzo
 なるほど、確かに二人の俳優は、演じるに当たってそれぞれの役の視点に立っていた。役の視点に立っていた以上、相手役のことも、自分の役の視点で見えていたように把握していたのだ。

 このことは演劇的に言っても人間的に言っても大きな発見だった。

 演劇的に言えば、俳優は客観的な視点を持ち得ないということが言える。常に演じている役の視点から世界を見ている、演じるとはそういうものだと言うことができる(極めて高度な例外はあるが、この場合それは考えに入れない)。

 人間的に言えば、どれだけ近くで見ていて相手のことを大事に思っていても、いや近くで見ていて相手が自分にとって重大な存在であるからこそ、相手の欠点や短所が強調して見えている。本心は伝わらない。本心では男性の役は決意や使命感を感じていたのだが女性にはチャラチャラ見えていたし、女性の役は冷静で思慮深いところさえあったのだが男性には感情的でヒステリックに見えていた。

 このすれ違いが現実でも起きているのだと思うとぞっとする。いや、台本も演出もなく生きている我々の現実では、もっと酷い誤解や無理解がまかり通っているかもしれない。

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筆者

谷 賢一

谷 賢一(たに・けんいち) 劇作家・演出家・翻訳家

1982年、福島県生まれ、千葉県柏市育ち。劇団DULL-COLORED POP主宰。明治大学と英国ケント大学で演劇学を学ぶ。2013年、翻訳・演出した『最後の精神分析』で第6回小田島雄志翻訳戯曲賞、文化庁芸術祭優秀賞を受賞。18~19年、原発事故をテーマに福島の半世紀を描いた「福島3部作」を作・演出。20年に第2部『1986年:メビウスの輪』で鶴屋南北戯曲賞、3部作で岸田國士戯曲賞を受けた。近作に、新国立劇場『白蟻の巣』、東京芸術劇場『エブリ・ブリリアント・シング』(翻訳・演出)、ホリプロ『17 AGAIN』(翻訳・演出)、神奈川芸術劇場『人類史』(作・演出)、PARCO『チョコレートドーナツ』(翻案・脚本)など。脚本や演出補としてシルヴィウ・プルカレーテ、フィリップ・デュクフレら海外演出家とのコラボレーションも多い。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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