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“密フェス”への不快感と、アーティストと大村県知事の一筋の光

印南敦史 作家、書評家

フェスが向かうべき道

 8月20日〜22日、新潟県の苗場スキー場で「FUJI ROCK FESTIVAL 21」(以下:フジロック)が開催された。

 当然ながらこの時期の開催には反対意見も多く、私自身も「ホントにやるの?」と不安と抵抗感がないまぜになったような気分でいた。事前に詳細な「新型コロナウイルス感染防止対策ガイドライン」が発表されはしたが、現実問題としてそれらがきちんと守られ、感染を回避できるとはとうてい思えなかったからだ。

 だが結果的に、フジロックはいい意味で予想を裏切ってくれた。YouTubeでのライブ配信を確認した限り、参加者はみなガイドラインを守っているように見えたからだ。

演奏直後、ステージ正面は人だかりとなったが、後方の観客は距離をとって楽しんでいた=2021年8月22日午後3時46分、新潟県湯沢町「FUJI ROCK FESTIVAL 21」(フジロック)の会場=2021年8月22日、新潟県湯沢町

 「なぜ、この時期に参加するのか?」という問題と直面していたアーティストたちの意識も、比較的高いように思えた。とくに「フェス中止とか、無観客とか求めるんだったら、マジで補償とか枠組みとか仕組みとか、本当に作るべきだって。もうそういうところにきてると思う」と、“中止か否か”というところからさらに一歩踏み込んだTHA BLUE HERBのMC、ILL-BOSSTINO(以下:BOSS)の主張には強く共感した。

 そんなこともあり、3日間のイベントが終了したころには「今年のフジロックの是非論は、もうこのあたりで終わりにしてもいいのではないか」という気持ちにもなれた。細かくみていけば問題もあったのかもしれないが、少なくとも運営側、アーティスト、オーディエンスの3者は、同じ思いを共有できていたように思えたというのがその理由だ。

避けられない責任

 それから1週間後の8月29日、愛知県常滑市のアイチ・スカイ・エキスポにおいて、一大ヒップホップ・フェス「NAMIMONOGATARI2021」が開催された。2005年の初回以来、場所を何度か変えながらも続けられてきた、ヒップホップ・シーンにおいては知られた大規模フェスである。

 余談ながら常滑は、若くして世を去った伝説のラッパー、TOKONA-Xの育った地だ。そういう意味でも感慨深いものはあった。

 しかも今年はZeebraを筆頭とする大御所からBAD HOP、JP THE WAVYなど勢いのある若手までが総動員されており、6月下旬の時点でラインナップを確認しただけでも、参加アーティストは現在の国内ヒップホップ・シーンを総なめしたかのような豪華さと感じた。

 とはいえコロナ禍であるだけに、おそらく開催されないことになるのだろうと個人的には予測していたのだ。同じような思いを抱いていた人は、決して少なくないのではないかと思う。

 ところが、意外なことにフェスは開催された。しかも対策を講じていたという運営会社の弁解とは裏腹に実際はズブズブで、会場は過度の密状態。SNSに続々とアップされた動画を確認する限り、ノーマスクでビール瓶を片手に踊りまくっているような観客も多く、対策の「た」の字もないような状態であった。ひとつの基準に多くの人々が賛同したフジロックとは対照的な結果である。

「密」なうえに酒が提供されていたフェス「NAMIMONOGATARI2021」=愛知県常滑市、読者提供「密」なうえに酒が提供されていたフェス「NAMIMONOGATARI2021」=愛知県常滑市、読者提供

 さて、こうなると避けられないのが責任問題。必然的に、炎上の対象となるのは以下の3者だ。

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