勝部元気(かつべ・げんき) コラムニスト・社会起業家
1983年、東京都生まれ。民間企業の経営企画部門や経理財務部門等で部門トップを歴任した後に現職。現代の新しい社会問題を「言語化」することを得意とし、ジェンダー、働き方、少子非婚化、教育、ネット心理等の分野を主に扱う。著書に『恋愛氷河期』(扶桑社)。株式会社リプロエージェント代表取締役、市民団体パリテコミュニティーズ代表理事。所有する資格数は71個。公式サイトはこちら
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
自分を粗末にする人に「他人のことを考えろ」と言っても届かない
愛知県常滑市の「AICHI SKY EXPO」で2021年8月29日に開催されたHIPHOP系野外音楽フェス「NAMIMONOGATARI(波物語)2021」が、感染対策を無視していたことから波紋を広げています。
主催者側は感染対策を形式上呼びかけていたものの、上限を超えた8000人を動員し、酒類を販売したうえ、ソーシャル・ディスタンスも不徹底でした。来場者も、マスクを着用しない者がいたり、お互いの体をぶつける「モッシュ」を起こしたり、曲に合わせて大声で歌う者もいたようです。
出演した一部の著名アーティストは「当初の約束とは違った」と謝罪しているものの、観客に声を上げるよう煽る出演者もいました。さらには、イベント終了後には飲食物のゴミが散乱し、感染拡大防止の観点からやってはいけないことのオンパレードという状態でした。
これに対して、「ルールを守って頑張っているエンタメ業界の人々の努力や医療従事者の方々の苦労を水の泡にする行為だ」「社会全体の迷惑になることがわからない連中なのだろう」等、インターネット上で批判の声が多数上がり、著名人も多数批判しています。多くの人が怒るのも当然であり、主催者・来場者・出演者を擁護することは一切できません。
ただし、その一方で、「ルールは守らなくちゃダメだ」「迷惑をかけちゃダメだ」という類の批判を見ていると、そのような「社会規範」で人々の逸脱行動を抑えようとしてきた日本社会の限界が露呈した面もあるのではないかと感じます。
たとえば、仮に私がHIPHOP系の音楽フェスにかつて頻繁に参加していたとしても、コロナ禍では絶対に行きません。仮に行ったとしても、あのようなリスクの高い行動を取ることはありません。
でも、その理由は、「ルールは守らなければならないから」でもなければ、「人に迷惑がかかるから」でもありません。「自分が無症状感染者だったら、人に感染させるかもしれない」という理由ももちろんありますが、それ以前に「自分の健康が大事だから」です。
明らかに今までとはレベルの違う第5波では、すぐ近くに新型コロナウイルスの脅威が迫っています。ですから「自分の“大切な心身”を守り抜きたい」という強い意志があれば、あのような行動は絶対取らないはずです。つまり、彼らはルールや社会規範を守る以前に、自分の心身を守るという意思が欠如している人たちだと思うのです。