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『これはただの夏』の著者・燃え殻さんに聞く「特別な一冊」への思い

「いつまでも不変であってほしいと思いながら書きました」

二ノ宮金子  フリーライター

主人公自身が揺さぶられて

燃え殻さんの小説第2弾『これはただの夏』(新潮社)拡大燃え殻『これはただの夏』(新潮社)
──『ボクたち』は自伝的小説というポジションでしたが、『これはただの夏』は同じ主人公の「ボク」が登場してはいるものの、ボク以外はすべて架空の人物です。小説が、こういう形にシフトすることは最初から決められていたんでしょうか。

燃え殻 前作に関して言うと、自分の中にあるものを書くしかなかったっていうことだと思います。その後、週刊誌で連載を始めて、毎週書く訓練をしていく中で、自分の中にあるものだけではなくて、あの主人公がその後どうなったんだろう、こうなったんではないだろうかというものも含めて、緩やかに繋がっていきました。『ボクたち』と『これはただの夏』の主人公は同一人物ですが、彼を中心にして、過去と未来を成立させたかったという気持ちがあったんです。

──10歳の少女の明菜や、披露宴で出会った優香、がん闘病中の大関など魅力的なキャラクターが登場しますね。

燃え殻 明菜は、母親と二人暮らしでその母親は留守がちという境遇です。彼女はまるで大人のようにしっかりしなければいけないという立場の子どもです。がん闘病中の大関にはタイムリミットがありますし、優香はある意味うまく生きながらも人に言えないことを抱えています。そんな彼らにあまり濃くはないけど関わっていくことで、主人公自身が少し揺さぶられて「自分も変わっていかなければいけないのではないか」というふうになるようにしたかったんです。

──主人公は40代ですが、これくらいの歳になってくると人生において自ら大きなシフトチェンジっていうのはなかなか起きにくい気はします。

燃え殻 自分の中で変えられる人もいるかもしれないですけど、ほとんどの場合は環境とかによって変わってくるのではないでしょうか。「少しずつでも変わっていかなきゃいけないよね」とか、「変わらざるを得ないよね」っていうときに、例えば明菜みたいな人に会って「彼女に大人として世の中は捨てたもんじゃないって思わせたい」と、初めて自覚的に大人を演じることってあると思うんです。

 初めは「ごっこ」だったかもしれない。でもみんな最初は大人ごっこだったり、社会人ごっこだったと思うんですよ。でもそのごっこがだんだん本当になっていくんじゃないのかな。

 だから本作では、主人公と優香と明菜で、どうにか帳尻を合わせるかのように、なんとなく家族ごっこのようなものをしていくわけです。それは世間の人たちからしたら「遅えよ、バカ」で終わっちゃうかもしれないけど、でも彼らなりに一生懸命やっているんです。そこは僕と一緒なんすけどね(笑)

──主人公に限らず、いったいどれだけの人が、大人になれたのかなと改めて考えさせられます。

燃え殻 これは逆説的なんですが、「大人になれなかった」みたいなこと言っている人って

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筆者

二ノ宮金子

二ノ宮金子 (にのみや・きんこ) フリーライター

カルチャー雑誌などの編集者、ライターを経て、フリーに。映画、本、食、温泉などを中心に執筆。関心領域は、貧困、不登校、子どもの病気なども。主な資格に、美容師免許、温泉ソムリエ、サウナ・スパ健康アドバイザーなど。ツイッターは、 https://twitter.com/kinko_ninomiya

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです