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池袋の「暴走事件」を、運転する高齢者の注意義務にとどめてはならない

自動車システムについての本質的な議論を

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

運転者の注意義務──これに依拠する危険

 池袋事件を含め、高齢者が引き起こす「交通事故」が、自動車システムの問題性を、いわば拡大鏡を通したかのように見せた点は重要である。この事件について東京地裁は、運転者に「求められる最も基本的な注意義務」をおこたったと指摘したが(朝日、同前、強調杉田)、これが問題の核心である。

 自動車はレールを持たない非常に不安定な乗り物であり、安全は基本的に運転者の注意力に委ねられる。だから運転者に最大限の注意義務が課せられる。

 なのにその操作法を、専門的に学び身につけたプロフェッショナル(専門家)は、育てられていない。他の専門職の例を見ても、自動車という不安定な機械を安全に操作する専門家を育てるには、少なくとも2、3年の期間が必要だろう。

 にもかかわらず、今日車を運転しているのは、「専門職」とはほど遠いただの「素人」である。職業上の運転者でさえ大差はない。私からすれば、現状は素人が医者や弁護士の仕事をしているようなものである。

 だから運転者の注意力の網はしばしば破られ、その結果、運転操作を誤るのはほぼ必然である。運転者の注意がおろそかになれば(わき見運転、前方不注意、スマホを見ながら・電話をかけながらの運転等)、あるいは注意がなされたとしても運転者が判断・動作を間違えば(池袋事件ではアクセルとブレーキの踏み間違え)、いやそもそも注意義務を無視するような行動がとられれば(本年6月の「八街事件」では飲酒)、自動車の安定性はたやすく損なわれる。

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「フェイルセーフ」の欠如

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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