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ノゾエ征爾が『物理学者たち』を演出(上)

スイスを代表する劇作家デュレンマットの代表作

大原薫 演劇ライター


 スイスを代表する劇作家・小説家フリードリヒ・デュレンマットの代表作『物理学者たち』が上演される。

 サナトリウムの精神病棟に入所している3人の患者がいた。自分をアインシュタインだと名乗る男、自分をニュートンだと名乗る男、そして「ソロモン王が自分のところに現れた」と言って15年間サナトリウムで暮らすメービウスと名乗る男。3人は「物理学者」だった。そのサナトリウムで、ある日看護婦が絞殺された。犯人はアインシュタインを名乗る患者。院長は放射性物質が彼らの脳を変質させた結果、常軌を逸した行動を起こさせたのではないかと疑った。しかし、さらなる殺人事件が起こり、事態は思わぬ方向へ・・・。

 核戦争の脅威で世界情勢が緊迫した1961年に執筆され、「科学技術」そして「核」をめぐって渦巻く人間の倫理と欲望を描く2幕の喜劇。本作を演出するのは劇団「はえぎわ」主宰のノゾエ征爾。卓越した発想力とユーモア、独特の奇想天外な世界観で大規模作品から小劇場まで様々な作品を手掛ける。今回は上演台本・演出を担当するノゾエに話を聞いた。

現代に通じるテーマを持つ喜劇

ノゾエ征爾拡大ノゾエ征爾

――ノゾエさんが『物理学者たち』という作品に惹かれたのはどういうところでしょうか?

 1幕と2幕に大きく分かれているんですが、1幕ではある展開がずっと進められていって、2幕から反転するような世界観になるんですね、反転の妙が文学的であるし、同時に文学的な繊細さだけじゃなくて、演劇的な強度もとてもある。戯曲として強さを感じられて面白かったですね。これは1960年代という核実験が盛んにおこなわれた時代に書かれた作品。「核」の問題に触れていますが、テーマとしては、「核」そのものというより、「すごい発明」に対してどういう正しい判断をしていくかという、現代に生きる我々にとっても身近に感じられるテーマがあり、新鮮に感じました。

――最初に脚本を読まれたときはどんな印象を持たれましたか。

 作者のデュレンマットは恥ずかしながら知らなくて、今回初めてデュレンマットの言葉に触れたのですが、最初にト書きで説明が2ページくらいにわたって詳細に書かれているんです。でも、その割に「(この説明は)何の役割も果たさない」とも書いてあって(笑)。デュレンマットという人が「ああ、こういうキャラクターの人なんだ」とわかって、良い興味を持って読み進めることができました。言葉使いなどが一筋縄ではいかないところがとても興味深く、最後に大きなどんでん返しがある。繊細で大胆。いびつで面白いなと好印象を持ちました。

――今回はノゾエさんご自身が上演台本も担当されていますが、上演台本を書かれる際に心がけられたことは?

 作品の構造そのものはいじっていませんが、言葉が難解なところがあったので、それを咀嚼して伝わりやすいものにしたいと思って。本多劇場という広めの劇場のサイズ感に伝わりやすいラインはどこだろうなと考えながら、言葉を簡略化したり、言葉使いを修正したりしました。

「この役者だからこそ、この人物」となるように

ノゾエ征爾拡大ノゾエ征爾

――上演台本を執筆する中で発見したことはありましたか。

 原作がドイツ語なので、翻訳されたものから読み解くしかないのが難しかったですね。山本佳樹さんの翻訳をベースにしつつ、英訳本なども参考にしながら読み解いていく過程で、「これは結局どういう意味なのだろう」とかえって混迷してしまった部分もあって。そこで改めて「このテーマに沿って自分はどう捉えていこうか」と考えることができたのが面白かったです。上演台本では、自分っぽい言いまわしを使ったところもあります。今稽古をしていて、いざ役者の体を通して言葉にしていくと「これもまた違うか」という部分も当然出てきます。それらを役者と話しながら、台本をちょこちょこいじっています。

――稽古はどのように進んでいますか。

 僕は読み合わせだけの稽古の時間はあまり設けないんですね。体が伴って言葉がどうなっていくかを見たいので、読み合わせ稽古は2日間くらいでした。今回は外国の設定なので、今の日本人の皆さんの体と乖離している部分をいかに馴染ませるかという作業をしています。繰り返し繰り返し演じることで、深く考え込みすぎないようにする。言葉もその都度いじったりして、「この役者だからこそ、この人物なんだ」というものにしていく作業をしているところです。

――メービウス役の入江雅人さんが「翻訳劇だと気取った⼤きな芝居になりがちなので、いつもと変わらない力を抜いた⾃然な演技を⼼がけようと思ってます」とコメントされていましたね。

 そうですね、入江さんは特にそこを注意されてよりニュートラルに、ナチュラルに演じてらっしゃると思います。

◆公演情報◆
ワタナベエンターテインメントDiverse Theater
『物理学者たち』
2021年 9 月19日(日)~9月26日(日) 本多劇場
公式ホームページ
[スタッフ]
作:フリードリヒ・デュレンマット
翻訳:山本佳樹
上演台本・演出:ノゾエ征爾
[出演]
草刈民代、温水洋一、入江雅人、中山祐一朗、坪倉由幸(我が家)、吉本菜穂子、瀬戸さおり、川上友里、竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介、ノゾエ征爾

〈ノゾエ征爾プロフィル〉
脚本家、演出家、俳優。劇団「はえぎわ」主宰。青山学院大学在学中に演劇を始める。松尾スズキ氏のゼミを経て「はえぎわ」を始動。以降、全公演の作・演出を手がける。また外部公演の作・演出も数多く担う。2012年『○○トアル風景』にて第56回岸田國士戯曲賞受賞。はえぎわ新作公演「ベンバー・ノー その意味は?」11/3~14新宿シアタートップスにて上演予定。
公式ホームページ

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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