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実録:沢村豊子師匠コロナ感染のてんまつ【下】

私は「豊子依存症」?、全快にほっとする

玉川奈々福 浪曲師

 2021年8月20日。浪曲三味線の名手、沢村豊子さん(84歳)が38.8度の発熱。検査の結果、新型コロナの感染が判明した。翌日に予定していた大きな公演は中止を決め、一緒に稽古していた玉川奈々福さん、弟子の沢村まみさんも急きょPCR検査を受けるなど、対応に追われ--。(前編はこちら

一番近い人が動けなくなる現実

 8月21日朝。

 奈々福とまみさんの陰性が判明。大きな荷物をどっと降ろす感覚。ほっとする。

沢村まみ
 もし陽性だったら、19日の仕事場に連絡して、ご来場のお客様全員にお伝えしなければならなかった。とりあえず20日時点で私からウイルスが排出されてはいなかったことに、大安心したが、コロナの潜伏期間は、最大2週間、その間に発症するリスクはあるので、やはり自宅待機せざるを得ない。

 豊子師匠は前日の晩、解熱剤を処方され、自宅療養。熱も下がり、他の症状も一切ないとの情報。

 そうは言われても、声が聴きたい。電話する。

 「お師匠さん、どう? 熱は下がりましたか?」

 「大丈夫だよ、どこも痛くもなんともないよ」

 一人暮らしのお師匠さんだったが、日常をサポートしている弟子一同がみんな濃厚接触者になってしまったので、別に暮らしている娘さん(ワクチン2回接種済)が、感染覚悟で隔離期間が終わるまで同居してくださることになった。

 もう、これに、大・大・大安心!!!

 前の晩、弟子の奈みほやまみさんたちとやり取りする中で、一番心配だったことは、日常的に一番近くにいる人間の多くが濃厚接触者になってしまった今、一人暮らしの豊子師匠をどう支えればいいのか、ということだったのだ。

 「熱が下がってよかった~~~!」

 それでも、お師匠さんは、ご自身がコロナだと認めていない(笑)。

 「ただの風邪だよ、みんなが大騒ぎしすぎるんだよ!!!」

 えええええっ!

 もう、さすがの豊子師匠である。怒る元気はある。重症化しないように祈るばかり。

LINEで稽古してみようか

 22日。

 豊子師匠に付き添ってくれていた玉川みね子師匠の陰性が判明。濃厚接触の若手たちの検査結果も順次届き、のきなみ陰性で安心する。連絡やら、対応やら、心配やらで日が暮れる。

 せっかく家にいるからと、新作の台本を読んでみたり、見られていなかった動画を見たり、本を読もうと思うが、全然心が落ち着かず集中できない。よって、豊子師匠に電話。前日とかわらず。無症状であるという。そして、退屈で退屈でしかたがないという。そうでしょうねえ。誰も稽古に来ないし、外に出られないし。

 はじめて「ごめんね」と言われる。

 23日。

 午前中、豊子師匠に電話。様子に変わりなし。

 夕方。豊子師匠から突然LINEのビデオ通話がかかってくる。

 娘さんからご指導を受けて、ためしにかけてみたとのこと。

 ああこれ、苦肉の策だな、と推察。

 退屈を持て余しているお師匠さんの気が、どうやったらまぎれるかと、娘さんが必死に考えてくださって、豊子師匠にLINEを教えてくださったのだろうと思う。

 映像でみると、お師匠さんの背後に三味線が見える。

 え? 三味線つないでるの?

 「三味線の稽古しろって、娘が言うからさ。でもさ、誰もうなる人がこないんじゃ、結局稽古にならないんだよ!」

 それで、LINEで私につないだのだろう。

 つないだはいいんだけれど……そのスマホを置いて、お師匠さん、三味線のそばに移動。LINEつないだまま三味線弾き始める……ちょっと、お師匠さん、通話中なんだけど!!!

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