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劇団四季の「祈り」、困難乗り越え生きる力を

最新作『はじまりの樹の神話』東北公演への思い

吉田智誉樹 劇団四季(四季株式会社)代表取締役社長

会場は体育館、東北へ届けた『ユタ』

 10年前の2011年。日本を大きな困難が襲いました。

 3月11日に起こった東日本大震災です。

 劇団四季のレパートリー作品の中には、東北の美しい自然を舞台に、命の輝きを描くオリジナルミュージカル『ユタと不思議な仲間たち』があります。長年交流を重ねてきた地域・東北の被害を連日報道で目の当たりにして、言葉を失い、何もできないもどかしさを抱えていた私たちに、劇団創立者の浅利慶太はこう話しました。

 『ユタ』を東北の子どもたちに届けたい――。東北の失われた美しさや豊かさを子どもたちの心に取り戻すためには、この作品を上演するのが一番ふさわしい。

 そこから怒濤の日々が始まりました。

 浅利の言葉に突き動かされ、直ちにスタッフたちが動き出します。各自治体、教育委員会のご尽力のもと、被災して使用できない劇場に代わり、避難所としての利用が解かれた学校の体育館をお借りできることに。体育館に合った新演出が練られ、舞台セットや小道具、衣裳の一部などの製作も急ピッチで進行。7月末からの約1カ月にわたって「東北特別招待公演」を実施することが叶い、沿岸部を中心に3県13都市を巡演。地元の小中学校の子どもたちや、ご家族をお招きすることができました。

拡大『ユタと不思議な仲間たち』東北特別公演のスタートは岩手県大槌町の吉里吉里中学校の体育館だった=2011年7月25日

 キャスティングされた出演者の多くは、東北出身の俳優でした。

 豊かな響きを持つ東北方言がふんだんに使われる『ユタ』の物語。体育館に置かれた円形の舞台セットを、観客が囲むように床に座って観る演出がなされ、俳優は観客と同じ目線で、まさに手を握らんばかりの距離で語りかけます。

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 震災で傷ついた心に寄り添うことを願い、上演を重ねる一方、来場された方々の笑顔の奥にある苦しみや悲しみの深さが痛いほど伝わってくる日々。地震と津波により様変わりしてしまった街並みを目の当たりにして無力感にさいなまれ、復興と再生への道のりがいかに大変なものであるかを痛感すると同時に、子どもたちの明るい笑い声に希望を見出した1カ月。終演後のお見送りで俳優たちは、お客様ひとりひとりの温かな手を握り、感謝の想いとともに、「また会いましょう」と声をかけ続けました。

 幸いなことに、その翌年も実施することができた東北特別招待公演。ご覧になった方々からは、たくさんの心のこもった感想が届きました。丁寧な字で前向きな言葉が綴られたメッセージの数々は、いまでも劇団の「宝物」としてライブラリーに飾られています。

 『ユタと不思議な仲間たち』は、東北の山村を舞台に、都会から転校してきた少年ユウタが、幼くして命を落とした「座敷わらし」たちとの出会いによって、生きる力を取り戻してゆく物語。浅利慶太演出で上演を重ねた。原作は三浦哲郎、作曲三木たかし。2021年10~11月、東京・浜松町の自由劇場で浅利演出事務所主催で再演される(再演版演出・野村玲子)。

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筆者

吉田智誉樹

吉田智誉樹(よしだ・ちよき) 劇団四季(四季株式会社)代表取締役社長

1964年、神奈川県生まれ。慶應義塾大学文学部卒。87年、四季株式会社に入社、主に広報営業関連セクションを担当。2004年に執行役員広宣部長、08年に取締役広報宣伝担当に就任。14年6月から現職。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです