「声かけ・サポート運動」に痴漢対策も加えて欲しい
2021年09月16日
車いすユーザーを狙った一部の悪質な痴漢やストーカーが、駅員が介助する際に乗車位置や降車駅について流すアナウンスを悪用しているようです。
障害者団体「DPI日本会議」が公表した被害実態によると、ある女性車いすユーザーは、「ここだ!」とスーツ姿の男性が乗ってきてぴったりと後方にくっつかれ、下着の色を聞かれるなどしたようです。また、アナウンスで行き先を知った男性から「俺も○駅だよ。一緒に降りようよ」としつこく声をかけられた人もいました。
電車内で痴漢・ストーキング行為をすること自体、とても下劣で許されないことですが、即座にその場を去ったり、途中下車したりするハードルが高い車いすユーザーを計画的に狙ったこれらの加害行為は、さらに悪質性が高いと言えるでしょう。
これに対し、DPI日本会議は、2021年7月中旬、国土交通省に改善を求める要望書を提出し、同省は鉄道事業者に対してアナウンス以外の方法を検討するよう促しました。これを受けて、JR東日本は、9月7日の社長会見で、「原則やらない方向で考えている」という方針を打ち出しました。DPI日本会議や被害当事者のソーシャルアクションによって改善が進みそうなことは、大変素晴らしいことだと思います。
ただし、国から指摘が入ってようやく改善に動こうとする鉄道事業者の姿勢については、落胆する面もあります。被害を受けた女性によると、利用する際に鉄道会社や駅員にアナウンスをしないでほしいと伝えても、「それなら乗せられない」といった反応をされることが多かったとのことです。つまり、現場ではかねて同様の要望を聞いていたはずなのに、これまでははね除けてきたことがあったわけです。
国交省が、8月18日に全国60以上の鉄道事業者を集めて、女性被害者にオンラインで被害の実態を聞く場を設けましたが、ユーザーの声に直接耳を傾けず、“お上”に仲介してもらったというのは、公益性の高いサービスを展開する事業者としての責務を全うしているとは言いがたいのではないでしょうか。
また、JR東日本では、「降車駅のアナウンスは利用者の同意を得ている」とのことですが、本当にその方針がしっかりと現場で共有されていたのか疑問です。前述のように、現場では、アナウンスしないで欲しいという要望が事実上拒否される事態が起こっていたからです。
以前の記事『車いす“乗車拒否”問題はJRの努力不足が要因。伊是名氏批判も一種の障壁』でも書いたように、車いす対応について全社で対応が統一されていないというガバナンス上の問題点が過去にはありました。
車いす“乗車拒否”問題はJRの努力不足が要因。伊是名氏批判も一種の障壁
各鉄道事業者は、アナウンスから別の方法に単に切り替えるだけではなく、組織の問題点も改善するべく、経営陣が社内でリーダーシップを発揮するべきでしょう。
その一方で、問題自体が解決に向かっているわけではない点も、忘れてはなりません。アナウンスを取りやめるというのは、あくまで加害者にアナウンスを悪用されないようにするための必要最低限の取り組みであり、今日も日本のどこかで、車いすユーザーが悪質な加害者たちに狙われていることへの対策ではありません。
これに対し、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください