2年ぶりのリアル開催、新たな才能発見も
2021年09月17日
コロナ禍の中、様々な制約を強いられている高校生たち。高校演劇の舞台には、「いま」を生きる彼・彼女らの思いが詰まっている。この夏、2年ぶりに開催された全国大会の様子を、劇作家の工藤千夏さんが報告する。
2021年8月4〜6日、紀南文化会館(和歌山県田辺市)において、高校演劇の全国大会が実施され、各ブロックの代表12校が上演を果たした。
とにかく、上演できて良かった。
無事に閉会式が迎えられて良かった。
私は客席にいて上演を観ながら、12校の背後に、いつにもまして、この会場にいない全国の演劇部員の存在を感じていた。
予選として開催されるはずだったのに開催されなかった大会、なんとか実施された無観客上演予選や映像審査のことを考え続けていた。
コロナは、他の芸術活動だけでなく高校演劇をもじわじわ蝕んでいる。もし、この大会が実施されなかったなら、その欠落は、70年近く続いてきた高校演劇の活動の流れを止めてしまったかもしれない。とにかく未来につなげなければと、みんなが力を合わせて必死に吊り橋を作り、みんなで渡りきった、そんな大会だった。
一般観客の入場は不可、上演校と関係者だけが観劇を許されるという制限はあっても、2年ぶりにリアルに全国大会を実施できた意義は計り知れない。
まずは、簡単に前提を説明しよう。高等学校総合文化祭、いわゆる高総文は、高校文化部のための全国規模のフェスティバルである。和歌山県開催の「紀の国わかやま総文2021」で第45回。その中に演劇部門もあるが、高校演劇の全国大会は、実は総文祭よりも長い歴史を持ち、今年で67回を数える。
昨2020年8月の高知県での総文祭は新型コロナウィルス感染拡大の影響でウェブ開催となり、演劇部門は審査を伴わない代替大会(選出された12校のうち7校のみ参加)が2021年3月末に実施された。
現在の高校2年生は、2020年4月の入学式がなかったり、学校祭や修学旅行が中止になったり、もう、高校生活のすべてがウィズ・コロナの学年だ。
今回の上演作品の中にも「私たち、どうせコロナ世代って呼ばれる」という自虐ネタのセリフがあった。都道府県の高校演劇連盟が主催する技術研修会も自主公演も行えず、日々の部活動さえままならず、先輩からの引継ぎのないまま上級生になってしまった年代である彼らが、全国から集まった観客の前で上演するという得難い経験を獲得した大会なのである。
2021年9月18日午後2時からNHK Eテレ『青春舞台2021』が放送される。前半は、全国大会を目指す演劇部の活動を追ったドキュメンタリー。後半は最優秀賞に輝いた舞台をノーカットで届ける。
地方大会を経て、全国大会へ出場した作品をみていこう。
長野県立松本県ケ丘高校『忘れないよ、九官鳥』(作:日下部英司 顧問創作)は、長野県高校演劇連盟が提示した、
〈いかなる場合も1メートル以上離れる〉
〈向かい合って話す場合には2メートル以上離れる〉
〈接触は禁止〉
〈マスク・フェイスガード・アクリル板を使ってもこのルールは変更出来ない〉
〈このルールが守られなかった出場校は失格〉
という、厳格過ぎるほど厳格なルールを見事に逆手に取り、きちんと向き合うことのできない他者との関係性を描いた作品である。
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