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高校演劇、制約乗り越えた全国大会【下】

「演劇したーい!」、叫びがこだました

工藤千夏 劇作家、演出家

 和歌山県での「紀の国わかやま総文2021 」で、2年ぶりにリアル開催された高校演劇の全国大会(8 月4〜6日)のレポート、後編です。舞台の上には高校生の切実な思いが表れていました。(前編はこちら

連続出場を勝ち取った、部活継続の意志

 北海道富良野高校演劇同好会、千葉県立松戸高校演劇部、徳島市立高校演劇部は、昨年高知県で開催される予定だった「こうち総文」に出場するはずだった各地域の代表校だった。そして、今年もまた、和歌山全国大会への出場権を勝ち取った。

 通常の部活ができる状態であっても、連続して全国大会に出場するのは並大抵のことではない。それは、運などという生優しいものではなく、部活動を存続させる力、作品を作り続ける意志の勝利だと私は思っている。

拡大千葉県立松戸高校『ヤマンバ」=同校演劇部提供
 千葉県立松戸高校『ヤマンバ』(原作:土田峰人「山姥」、翻案:阿部順)、徳島市立高校『白の揺れる場所』(作:近藤理恵・古田彰信、潤色:村端賢志)は、偶然にも、過去の傑作高校演劇作品を「まさに今」にアップデートした作品である。もともとの戯曲の力と見事な翻案・潤色テクニックが相まって、2021年に生きる観客が今を考える作品に昇華した。

 高校演劇の魅力のすべてが加算され、積み上げられていく『ヤマンバ』は、クレジットされているキャストが35名。まさに足し算のパワー。同調圧力やSNSでの誹謗中傷に抗うヤマンバの生き方が、ロックの魂とともに炸裂した。

拡大徳島市立高校『白の揺れる場所』=同校演劇部提供
 かたや『白の揺れる場所』は、保健室を舞台にナチュラルな徳島弁が静かに響く現代口語演劇。白い柱が印象的な小さな静かな世界で、文化祭中止の報や語られない妊娠によって、さざ波のように揺れる心が繊細に描かれる。全く傾向の違う、真逆とも言えるこの2作品は、コロナに負けずに活動を持続した2校の部活力をまざまざと見せつけた。

 富良野高校演劇同好会『お楽しみは、いつからだ』(作:富良野高校演劇同好会)を選出した北海道ブロック大会は、映像での審査だった。私も審査に携わり、コロナ下の高校生活を描く上で、2020年4月の部活説明会という定点(コロナ騒動など夏までに終わるだろうと、多くの人がことの深刻さに気づいていなかった頃)を、コロナとの戦いがちっとも終わっていない「ナウ」から俯瞰するという設定の巧みさに膝を打った。しかも、前回の全国大会に選ばれながら上演中止の憂き目に合った富良野高校演劇同好会が、それを知らない状況をメタで演じる! 私は、その演劇愛に涙した。

拡大北海道富良野高校演劇同好会『お楽しみは、いつからだ』=同校演劇同好会提供
 だが、北海道ブロック大会から8カ月が過ぎ、コロナによる社会生活への影響もコロナウィルス自体も変異し続けている今、実現予定の未来として語られる「こうち総文」が、ブロック大会の時点と全く同じ俯瞰の仕方で「わかやま総文」の舞台で語られると、観客の共感を得るのは難しくなる。コロナが違うフェイズに入っているだけでなく、わかやま総文に出場している演じ手を、観客は目的を達成した人々として観てしまうのだ。変異し続けるコロナ下で、現代的としての演劇作品で創ることがいかに難しいか、痛感させられた。

 ただ、私としては、コロナ社会を鋭くえぐる傑作を残すことより、自分たちらしくひたすら楽しく演じることを選択した富良野高校演劇同好会が愛おしかった。やっと、ついに、本当に、ウソじゃなく、全国大会の舞台に立ったよ! と、はしゃいでいるかのような彼らの演技を見て、もっとはしゃいでいいんだよ、それもまた演劇だよ、と、やはり、涙したのである。

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筆者

工藤千夏

工藤千夏(くどう・ちなつ) 劇作家、演出家

ニューヨーク市立大学大学院演劇科修士課程修了。1992年「青年団」入団、2003年より演出部に所属し「うさぎ庵」を主宰。『真夜中の太陽』(原案・音楽:谷山浩子)は、15年から劇団民藝版が全国巡演。代表作『コーラないんですけど』の東京公演(ザ・スズナリ)が、19年4月、20年4月と相次いで、緊急事態宣言のため上演中止となった。青森市を拠点にする劇団「渡辺源四郎商店」のドラマターグ、日本劇作家協会高校演劇委員も務める。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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