大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター
演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
韓国ミュージカル『HOPE』を日本初演
ミュージカル『HOPE』日本初演で、俳優の新納慎也が演出家デビューを果たす。
韓国で大ヒットを博すミュージカル『HOPE』は、著名作家の遺稿の所有権をめぐって長きにわたり実際にイスラエルで起こった裁判がモチーフ。ベストセラー作家の著作権についてイスラエル図書館と長年争ってきた女性エヴァ・ホープの数奇な人生を、法廷劇を通して描く作品だ。
『HOPE』の上演台本・訳詞・演出を手掛ける新納慎也。来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演が決まっているなど俳優として活躍する新納だが、本作で初めて演出を担当する。初演出にかける思いを聞いた。
――今回が初演出ですが、以前から演出に興味があったのでしょうか。
大学(大阪芸術大学)では演技・演出コースにいて、学生時代は何本か演出していました。その後は役者をやることで精いっぱいでしたが、30代半ばを超えたころから「演出がやりたい」と口にするようになったんです。何回かオファーをいただいたのですが、なかなか実現しなかった。今の段階では僕は演出するなら出演しないというスタンスですが、そう言うと「じゃあ、出演して」と言われることが多くて。この度ありがたいことに、演出でとお話をいただきました。
――ミュージカル『HOPE』での演出依頼だったのですか?
お話をいただいたときは何本か候補があって、僕が『HOPE』を選びました。
――なぜ『HOPE』を選んだのでしょう。
一番、今の僕に響いたんですね。優秀な作品ばかりでしたが、この作品が僕の心に響いたのはコロナ禍ということもあるのかも。まず、この作品は法廷物ですが、僕は法廷が好きなんです(笑)。裁判というのはとても演劇的。決して真実を暴く場所でなく、とりあえずこの場で有罪か無罪かを決めるという残酷さに心を動かされます。それに、『HOPE』は老女が主役。人生を描いているテーマ性が気に入ってこの作品を選びました。
――法廷劇とのことですが、舞台が法廷に終始するわけではなく、どうしてエヴァ・ホープが著名作家の著作権にそこまで固執するのか、ホープの過去の物語が随所に織り込まれる構成です。新納さんから見た作品の印象は?
なんて悲しくて寂しくて、痛い物語なのだろうと思います。もう、心がヒリヒリする。でもタイトルどおり、そこには一筋の希望がある。ただ暗いとか、やるせない気持ちで終わらないところがいいなと思います。
――エヴァ・ホープと母マリーが戦争によって過酷な運命をたどってきたことが劇中で明かされます。
これは実話ではないのですが、歴史の中でホープたちと同じ思いをした人は必ずいたはず。こんな思いをしながら生きてきた人が過去にはいたんだというのは、ぜひ観ていただきたいところですね。
◆公演情報◆
Musical「HOPE」
Book & Lyrics by Kang, Nam Composer & Arrangement by Kim, Hyo-Eun
Original Production by R&D Works
2021年10月1日(金)~17日(日) 下北沢本多劇場
公式サイト
公式Twitter
[スタッフ]
上演台本・訳詞・演出:新納慎也
振付:木下菜津子
音楽監督:落合崇史
[出演]
高橋惠子 永田崇人・小林亮太(Wキャスト)/清水くるみ 白羽ゆり/
中山昇 縄田晋 染谷洸太 木暮真一郎/上山竜治/大沢健
〈新納慎也プロフィル〉
舞台を中心にキャリアを積み上げ、本年デビュー30周年を迎えた。2009年には『TALK LIKE SINGING』でNEW YORK OFF BROADWAYデビューを果たす。主な舞台出演作品は、『日本の歴史』『生きる』『ラ・カージュ・オ・フォール』『パジャマ・ゲーム』『パレード』など。来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』出演も話題になっている。
★公式ツイッター