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俳優・新納慎也が演出家デビュー(下)

韓国ミュージカル『HOPE』を日本初演

大原薫 演劇ライター


俳優・新納慎也が演出家デビュー(上)

手に取るように感情が伝わるミュージカル

――今回は上演台本と訳詞も新納さんが担当されますが、日本版はどうなっているのでしょうか。

 ホープの人間像を描くうえで日本人が感情移入しやすいように、と心がけました。ホープは決して特殊な人ではないと思うんです。普通の人が裁判にかけられることで人生を掘り下げられていく様子を描きたかった。「狂女」と町の人に言われるけれど、それは町の人がホープを色眼鏡で見ているだけであって、実際は狂っていたわけではない。ある程度品もあり、ポツンと孤独に生きている女性で、日本版では「こういう人、いるよね」と思ってもらえる女性像にしたいと思っています。「特別な人に起こった特別な話」ではなく、誰にでも起こりえる普遍性がほしいなと思うので。

新納慎也=森好弘 撮影拡大新納慎也=森好弘 撮影

――『HOPE』の楽曲は繊細で美しいですね。

 韓国ミュージカルはよくできている作品が多いし、優秀ですよね。台本も音楽も良いし、その場その場で的確なメロディーと、心に刺さる楽曲になっている。「急に歌うのか」とか「今の感情と楽曲が合っていないんだけど」ということがないんです。『HOPE』も感情にフィットする楽曲ばかり。ナンバー数は多いですが、ナンバーとして捉えるより台詞のように感じられるような、感情にすんなり入ってくる楽曲ですね。

――韓国ミュージカルというと高い歌唱力で歌い上げる大作がまず思い浮かぶ方もいらっしゃるかもしれませんが、『HOPE』のように細やかに心情の機微に入り込む作品も多く上演されています。

 僕は今まで大劇場の作品に何度も出させていただいていますが、もともと「小規模の良作」という作品も好きで。ニューヨークに行くときもブロードウェイよりオフ・ブロードウェイを中心に観劇しています。本多劇場で『HOPE』を上演するというのは、オフ・ブロードウェイのような感じがするんですよね。今まで大劇場の作品を中心に観ている人が本多劇場でギュッと凝縮して上演する少人数のミュージカルを観ていただけたら、「こういう世界観もあるのか」と身近に思われるかもしれない。華やかな虚構の世界だけがミュージカルではなく、手に取るように感情が伝わるミュージカルもあるんだと知っていただきたいですね。それに、この作品はお隣の韓国で作られた作品。同じアジア人同士、感性的に近い部分もあると思う。西洋人が作った作品よりも入り込みやすいと思う方もいらっしゃると思います。

新納慎也=森好弘 撮影拡大新納慎也=森好弘 撮影

――ミュージカルの楽しみ方も広がりそうですね。

 そうですね、「いろんな作品があっていいんだ」と思っていただけたらと思いますね。

内面の美しさが見える舞台にしたい

――今回初演出ということで、今どんな演出のプランを考えていらっしゃいますか。

 言葉にするのが難しいですが……、僕は美しい舞台を観たい。ビジュアルが美しいとか動きがきれいとかではなくて、内面の美しさ、心の美しさが見える舞台にしたいですね。本多劇場でお客様が手の届く距離にいるんだから、大げさなところでなく、役者にも心をちゃんと見せてほしい。そうすれば、人間の欲や汚い部分さえも美しく響くんじゃないかと思うんです。

新納慎也=森好弘 撮影拡大新納慎也=森好弘 撮影

――演出するにあたって一番こだわりを持ちたいことは?

 リアリティかな。さっきも言ったように歴史上の事実を扱う部分もあるし、ファンタジー作品ではないので、人間というものが描かれていないといけない。ちゃんと心がある作品にしたいですね。

――ミュージカルでリアリティを与えるのもなかなか難しいことかもしれません。

 でも、今までミュージカル俳優として演じてきた作品で、ストレートプレイよりもリアリティが出せたものもある。日本では「突然歌う」ことのリアリティのなさを指摘されがちですが、むしろ芝居で見せるよりも歌うことによってリアリティが出せるという奇跡もあります。今回はそこを目指したいですね。

新納慎也=森好弘 撮影拡大新納慎也=森好弘 撮影

――音楽監督は落合崇史さん。新納さんが出演された『スリル・ミー』のピアニストとしてご一緒された方ですね。

 そうなんです。落合さんの音楽が持つドラマティックさがこの作品に合うなと思って。落合さんは才能も人柄も素晴らしい方。歌唱指導はtekkanさんにお願いしているんですよ。僕は初演出なので、味方をいっぱいつけておきたくて(笑)。信頼できて、センスも合う方にお願いしています。

◆公演情報◆
Musical「HOPE」
Book & Lyrics by Kang, Nam Composer & Arrangement by Kim, Hyo-Eun
Original Production by R&D Works
2021年10月1日(金)~17日(日) 下北沢本多劇場
公式サイト
公式Twitter

[スタッフ]
上演台本・訳詞・演出:新納慎也
振付:木下菜津子
音楽監督:落合崇史
[出演]
高橋惠子 永田崇人・小林亮太(Wキャスト)/清水くるみ 白羽ゆり/
中山昇 縄田晋 染谷洸太 木暮真一郎/上山竜治/大沢健

〈新納慎也プロフィル〉
舞台を中心にキャリアを積み上げ、本年デビュー30周年を迎えた。2009年には『TALK LIKE SINGING』でNEW YORK OFF BROADWAYデビューを果たす。主な舞台出演作品は、『日本の歴史』『生きる』『ラ・カージュ・オ・フォール』『パジャマ・ゲーム』『パレード』など。来年の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』出演も話題になっている。
公式ツイッター

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筆者

大原薫

大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター

演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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