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『中国vs.世界』の著書・安田峰俊さんが語る中国取材の裏の裏

「東京五輪の最大の意義は、中国に生きたデータを提供したことです」

井上威朗 編集者

潜入取材した「孔子学院」は「餃子の王将」!?

──『中国vs.世界』では、西側諸国の一部から中国政府の出先機関だと疑われている語学教育機関「孔子学院」に潜入する、という企画もありましたね。

安田 オンライン授業をやっている学校があったので、Zoom潜入取材となりました。私は上級コースを受講しましたが、半年間、週イチでかなりレベルの高い授業を受けられて、学費は4万円未満です。

──破格の安さですね!

安田 はい、中国国民の血税で、語学力をブラッシュアップさせていただきました。

──でも、ノンフィクション作家という素性がバレたら出入り禁止になってしまうのではないですか。

安田 取材のあと、次の期も別の孔子学院に上級コースの受講を申請しました。そうしたら受講者不足で無理です、と断られたのです。

──孔子学院、オンライン放校処分だ。

安田 これは素性をチェックされたんだなと思ったんですけど、実は今月になって「ごめん、実はあれ先生が足りなかったからなんだ」って連絡が来ました。

──ずいぶん適当ですね。

安田 おかげで今期も孔子学院でありがたく学ばせていただいています。昨日はトライアルで、さらに別の大学の孔子学院にも行きました。

中国が開いた「孔子学院」で中国語を学ぶ人々=2018年12月3日、ブダペストのエトべシュ・ロラーンド大学拡大世界各地にある「孔子学院」=2018年、ハンガリー・ブダペストのエトべシュ・ロラーンド大学

──どうですか、スパイ的な話はありましたか。

安田 いえ、ノリが違っただけですね。出入り禁止にもなりませんでした。『中国vs.世界』でも書きましたが、私は「孔子学院イコール餃子の王将」説をとなえるようになったのですよ。

──店舗ごとにメニューも経営方針も違う、と。

安田 1店舗ぐらい、すごい意識が高い王将、世界と勝負する王将があってもおかしくないじゃないですか。同じように、世界と戦う孔子学院があるかもしれませんね。

──著者として『中国vs.世界』で印象的だった取材はどのようなものでしたか。

安田 コラムとして入れた対談(ウスビ・サコ氏、マライ・メントライン氏)は2本とも気に入っています。やっぱり生で喋るほうが楽しいですよね。そこを除くと、ダントツで好きなのが、セントビンセント及びグレナディーン諸島と中国の関係。日本人でこれを真面目に論じた人は1人もいなかったですから。

──セントビンセント及びグレナディーン諸島。これは国家の正式名称なのですね。

安田 カリブ海に浮かぶ人口11万の島国です。日本とはいちおう国交があるのですが、大使がいるのは200キロ離れたトリニダード・トバゴの大使館。この大使、カリブ海の近隣9カ国の大使を全部兼務しておられるみたいなんですよ。

──日本も適当に相手している感じですね。

安田 まあ、国家とはいえ人口が鳥取市(約19万人)よりも少ないミニ国家が何カ国も含まれていますし……。逆に、セントビンセントのほうも日本に対して適当です。極東の大使館をすべて、「台北に置いている大使館」という超レアな施設に集約させています。

──日本の情報も台湾経由でやってくるのですね。

安田 この国にとっての東アジアは、台湾なんですよ。面白すぎるじゃないですか。

──『中国vs.世界』では、セントビンセントと台湾の熱い結びつきが描かれ、一方で中国の圧力により次々と台湾と断交していく諸国の事情が報告されています。台湾の首脳が国交のある国を訪問し、友好をアピールして帰ってきたらその2週間後に断交が発表される、っていうのがテンプレみたいになっていて恐怖しました。

安田 わりとある話ですね。いきなり裏切るとか、巨額のカネを要求してくるとか。

──で、それはちょっと……とやると断交されてしまう。

安田 そしてその国は中国と国交を樹立して、投資を得るわけです。しかし、台湾は台湾でしたたかなもので、コソヴォとかソマリランドとか、絶妙にネタになる国(「国」なのかも議論がありますが)に接近していたりする。ぜひ取材に行きたいところですが……。

──やっぱり現地取材、したいですよね。

安田 そりゃ、すごく現地取材したいですよ。セントビンセントみたいな国って絶対にガードが緩いでしょうから、普通に現地の台湾の大使館に行ってピンポン押したら話してもらえる気がするんですよね。そういう緩いところから国際情勢に食い込んでみたいなって。

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筆者

井上威朗

井上威朗(いのうえ・たけお) 編集者

1971年生まれ。講談社で漫画雑誌、Web雑誌、選書、ノンフィクション書籍、科学書などの編集を経て、現在は漫画配信サービスの編集長。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです