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高市早苗『美しく、強く、成長する国へ。』に見える本質的なヤバさ

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 今回の自民党総裁選で善戦した高市早苗氏を、ある意味ハラハラした思いで見ていた。安倍晋三前首相の全面的な後ろ盾を得て、中盤からぐんぐんと支持を伸ばした高市氏だったが、スタート時点では「泡沫候補」と言われるほどで、その極端に右寄りの政策はさすがに自民党内にも抵抗を覚えるものもいたに違いない。

 ところが芸能人の世良公則や嘉門タツオあたりが持ち上げ始めたあたりから明らかに風向きが変わってきたように見えた。安倍前首相がやりたがっていた、広告会社を総動員した改憲への「大衆操作大作戦」が、すでにスタートしていることを思い知らされた次第である。

 振り返ってみれば、この総裁選をめぐるメディアのはしゃぎぶりは異様だった。

 菅首相が辞意を表明するやいなや、オリンピック実施の是非や杜撰なコロナ対策など、菅政権が負うべき政治的責任を忘れたかのように、連日、各候補の主張や候補同士の論戦を報じた。選挙前にはなるべく政治的アイテムにさわらぬように気を配り、むしろ有権者の選挙への関心をそらすような話題を優先しておいて、結果が出た途端、アリバイ作りのように選挙を振り返って報じる衆参議員選に対する姿勢と大違いである。

高市氏の『美しく、強く、成長する国へ。──私の「日本経済強靱化計画」』(WAC)拡大高市早苗著『美しく、強く、成長する国へ。──私の「日本経済強靱化計画」』(WAC)
 出版界においてもその傾向は変わらず、新書の平台では総裁選にまつわる政治家本が並んだ。面白くはないだろうと思いつつ素通りできないのは、どんなつまらないものであっても、言葉にこそそれを発する人間の「本質」が顕れるだろうと信ずるからだ。

 高市氏の『美しく、強く、成長する国へ。──私の「日本経済強靱化計画」』(WAC)は、案の定、興味に駆られてぐいぐいと先を読み進められるような本ではない。巻末にずらりと「資料提供者・ヒアリング協力者」と「参考資料・引用文献」のリストが並んでいるが、さながらワーキング・グループの報告書を読まされているような味気なさが始終つきまとった。

 その各論の是非を個別に論ずる字数も余裕もないが、本書を通読した感触をざっくり述べれば、「サナエノミクス」と自ら名付けた、「アベノミクス」の亜流のような経済政策についてが8割、サイバーセキュリティやAIなど技術革新を理由に中国脅威論を増幅し、敵意と憎悪を煽った軍事強化論が1割5分、残りの5分が本書の中でもっとも危険な、そしてこれこそが本丸に違いない改憲論である。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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