大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主
1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
本書の大部分を占める経済政策だが、全体として今後自民党に向けられるであろう批判を先回りしている感が強い。
たとえばそのひとつがコロナ禍の渦中にあっての「危機管理」と「医療体制」についてだ。
「公立病院、民間病院、双方の特徴を活かした『最適な地域医療体制の整備』が必要だ」
とさらりと言うが、病院を整理し、病床数を減らし続けてきたのは他ならぬ政府自民党であったことは、今となっては衆知の事実だ。医療分野の研究助成金を増やせ、と何もなかったかのように言うが、感染症の基礎研究の予算を年々削り続けてきたのはどの党か。「私はこう主張してきたのに」という言い訳はもはや効くまい。政調会長や総務大臣まで歴任してきた人間が口にしていいセリフではない。
それに加えて、持続化給付金の再支給やそのための予算措置の必要性を述べた後の、次の言葉には呆れるしかない。
「しかし、補正予算の編成が無いまま通常国会は閉会となり、その落胆は大きかった。/先ず、病床や医療従事者の確保、宿泊療養先となるホテルや旅館の借り上げについては、更に思い切った国費の投入をしなければ、地方自治体では対応し切れない。生命に関わる対策について、国費を出し惜しんではならない」
まさに「どの口がそれを言う」状態である。「自宅療養」という名の棄民政策を行ったのはどこの党なのか。国会を開けば解決する問題を、頑なに拒み続けている党はどこか。本気で必要だと思ったら、“クーデター”を起こしてでも菅首相に迫るべき問題であった。
あるいは、「分厚い中間層を再構築する税制」を主張する。これも、格差社会をもたらしたのは、他ならぬ与党自民党の政策なのだが、そこはすっかりスルーして〈再〉構築を唱えるのだ。しかもそこには「消費税」という言葉は一切なく、「法人税」という言葉すら出てこない。最大の目玉は「給付付き税額控除」の導入らしいのだが、その項の第1行を読んで、やはり、と思った。
「私は、『格差の是正』を目指す場合にも、『勤労インセンティブを促す』税制にすることが必要だと考える」
つまりここには「がんばる人だけが報われる」というネオリベ思想が強く滲んでおり、この格差社会をもたらしたものの本質をまったく分かっていないのだ。さらに引用する。
「『払う人』と『貰う人』の2分化が進み過ぎると、リスクをとって努力する人が日本に残らなくなってしまう」
という記述に至っては、例のネットで散々拡散された「さもしい顔をして貰えるものは貰おう。