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東京五輪音頭 “歌謡遺産転がし”による国民総踊り計画はなぜ失敗したのか・前編

【40】東京五輪音頭

前田和男 翻訳家・ノンフィクション作家

東京五輪音頭 昭和38(1963)年

作詞・宮田隆、作曲・古賀政男、歌・三波春夫

場所:東京

 いまや「東京オリンピック・パラリンピック2020」(以下オリパラ)は、自民党総裁選と間近に迫った総選挙のおかげで、日々に疎くなっている。

 このままでは、成否についての事後検証は一切なされずに、歴史の彼方に葬り去られそうだ。そもそも、菅義偉・前政権が延命のためにその開催にこだわらなければ、コロナ禍はあれほどひどいことにはなってはいなかった。その意味では、コロナという「天災」を「人災」にしてしまったのは、現政権のオリパラへの執着のせいである。

拡大東京パラリンピックの閉会式で国立競技場から打ち上げられる花火=2021年9月5日、東京都内

コロナで覆い隠される「負の遺産(レガシー)」

 いっぽうで、もしオリパラが当初のスケジュールどおり順調に開催されていたら、事後に大いなる失態と共に不都合な真実が明るみになったことは間違いなく、それを突然来襲した世紀の疫病は覆い隠してしまった。なんとも皮肉なことだが、コロナによってもっとも恩恵をうけているのはコロナを“人災化”した張本人のこの国の政権なのである。

 これからも、当事者たちは、不都合な「負の遺産(レガシー)」をコロナで覆い隠そうとするだろう。いや、着々とそうしつつある。

 その筆頭は、カネのかからない五輪を標榜しつつも、おそらく膨大な赤字になると思われる収支と、これまた膨大になると予想される今後の施設のランニングコストだ。だが、これはだれの目にも明らかな関心事なので、隠しきれずに、いずれは明るみにでる。問題なのは、一見そうとは見えない「負の遺産(レガシー)」である。

 なかでも、もっとも等閑視されるだろうと筆者が危惧するのは、テーマソングをめぐって目論まれた“遺産(レガシー)ころがし”――57年前に大ブレイクした「東京五輪音頭」のリメイク――による大いなる誤算と失態である。

 赤字の国民への付け回しという「負の遺産(レガシー)」にくらべれば、「歌の遺産転がし」の誤算と失態など大したことはないと思われるかもしれない。だが、私のみるところ、むしろ深刻度においては「赤字問題」よりもはるかに高い。それはオリパラの設計図の根幹に――論をきわめれば、この国の政治経済活動のありようにもかかわるものであり、それゆえ当事者たちは「なんとかこのまま表に出ないでほしい」と願っているはずだからである。

 であればこそ、昭和歌謡遺産が通しテーマである本連載で、これを見逃すことは断じてできない。

拡大リメイクされた東京五輪音頭を踊る舞踊団のメンバーら=2019年3月16日、横浜市港北区

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筆者

前田和男

前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家

1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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