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市川右團次&右近、取材会レポート

素踊りや歌舞伎十八番で見せる『華の舞』が開幕!

米満ゆうこ フリーライター

 歌舞伎をもっと多くの人や若い世代に知ってもらうために企画された公演『伝統芸能 華の舞』が、10月14日から全国各地で開催される。昨年に引き続き、出演するのは市川右團次と息子の市川右近。二人が大阪市内で取材会を開き、演目『楠公(なんこう)』『鳴神(なるかみ)』や、父と子の関係について話した。会見中、右團次が話す姿を、右近はじっと真剣に見つめ、何ともほほ笑ましい時間となった。

稽古を嫌がることもなく凜としている

市川右團次(右)と市川右近=岸隆子 撮影拡大市川右團次(右)と市川右近=岸隆子 撮影

――2019年のラグビーワールドカップの開幕式では、『連獅子』を親子で共演され話題になりました。昨年の「華の舞」でも『連獅子』を上演しましたが、いかがでしたか。

右團次:W杯の時、息子はまだ9歳でしたので大丈夫かなと思っていたのですが、世界の人を前にやらせていただき、本当にいい経験になりました。前回の『華の舞』も親としてはよくやったなと。9歳から10歳にかけてのかけがえのない思い出になったのではないかと思います。よく頑張ってくれましたし、最後の毛振りは親がついていくのがしんどいぐらいでした(笑)。大変、頼もしかったです。実の親子で『連獅子』というのは、なかなか年の差があると、叶うようで叶わない。実の親子としてそういう経験ができたのは非常に幸せで、一生の思い出ですね。

右近:ものすごく体を動かすから大変でした(一同笑)。

右團次:足とお尻の筋肉がついて、息子の上着は150㎝サイズなんですが、パンツは160㎝サイズの歌舞伎俳優らしい体形になってしまいました(笑)。

――右近さんのここがいいと思うところは?

右團次:親バカ話ですね、親バカさを聞きたいと(笑)。「体を動かして大変だった」と言っていましたが、そこを顔に出さず泣き言を言わずにしっかりやるのは親として褒めてやりたいですね。ほかの芝居もそうですが、稽古を嫌がることもなく、しっかりと取り組んで、凛としているので、そこがうれしいです。

紋付袴で親子の別れをドラマティックに表現

市川右團次=岸隆子 撮影拡大市川右團次=岸隆子 撮影

――今回の一の巻は〝楠木正成二題〟として、能楽独調『楠露(くすのつゆ)』と、お二人が共演する『楠公(なんこう)』が上演されます。

右團次:『楠公』という素踊りは長唄の名曲なんですけど、私が10歳か11歳の時、舞踊家の父、飛鳥峯王が楠木正成、私が息子の正行を演じて親子で取り組んだ思い出があります。ちょうど今、右近が11歳で、その年齢になりましたので、ぜひ、この『楠公』で舞踊のドラマティックな部分をご覧いただきたいと思います。

 まず、素踊りを見て頂くのが『華の舞』にふさわしい。本来なら派手に扮装してご覧いただくのですが、あえて、それを取り除いた紋付袴の姿で踊ります。せがれにとっても勉強になるでしょうし、私ども澤瀉屋(おもだかや)一門の若手も総出演して、合戦や別れのシーンなどをお目にかけるのも面白い趣向だと思います。

――具体的にはどういう場面で親子共演されるのですか。

右團次:朝敵征伐を命じられた正成が死をもいとわず合戦に向かおうとする時に、正行が「一緒に行かせてくれ」と言うんです。正成はもともと河内の出身らしく、せがれに「河内に帰って家をもり立てて、いつか朝敵征伐に向かってほしい」と言って別れるとてもドラマティックな場面ですね。今は私が13年前に父と踊っている映像を息子に見せています。

 素踊りの難しさは、どれだけお客さまにイメージしてもらえるかというところです。演じていく上で、足し算や引き算をしていけばいいのかと。足し算しすぎるとオーバーになってしまいますし、紋付袴で踊るので引き算しすぎてもドラマティックにならないので、難しいですね。息子も初めての素踊りになるので、指導していくにあたっての課題です。私が父とやった時は、父の振付だったんですけど、今度は藤間勘十郎さんの振付になります。

右近:普段は衣裳を着て踊ったりしているから、難しそう。

右團次:白粉を塗る前に、鬢付け油をつけるんですけど、ベタベタして子どもには気持ち悪いんです。僕も子どものころ好きじゃなかった。せがれは「今度は鬢付けを塗らなくていいからいいな」と子どもらしいことを言っています(笑)。

――実の親子で演じられる良さはありますか。

右團次:我々親子に当てはめながら見ていただけるのではないかと。説明しなくてもご理解いただけるので、意義があると思います。

演じた役者に習い、自分で構築していく

市川右團次(左)と市川右近=岸隆子 撮影拡大市川右團次(左)と市川右近=岸隆子 撮影

――舞台の二の巻で、右團次さんが鳴神上人を演じる『鳴神』は歌舞伎十八番の中でも有名です。鳴神上人と、彼を色香で惑わせる雲の絶間姫のやり取りも見どころですね。右團次さんにとって、この作品はどうですか。また、息子さんには何を感じてほしいですか。

右團次:『鳴神』は、ザ・歌舞伎と申しますか、歌舞伎の真骨頂ともいえます。演じる役を誰かに直接教わることは歌舞伎界では通例なんですが、私の師匠の市川猿翁の考え方はそうではなく、たくさんの方々の舞台や映像を見たりしながら、ご自身で構築していく。「僕は全員のを見るんだよ」とおっしゃっていました。私は師匠から教わり、最後に師匠に仕上げていただいていましたが、師匠は「僕はやったことがないから、その役をやった人に見てもらいなさい」と言われる時もあります。でも、基本は自分で分析して解析して、自分のものを作りなさいというのが、澤瀉屋の芝居の作り方だと思います。そのおかげで、スーパー歌舞伎などの初演の作品も自分で役を構築するという訓練ができました。

 昨年、市川海老蔵さんの一座で『鳴神』をやった時は、海老蔵さんに見ていただきました。「鳴神上人が高僧であることを忘れないで演じてください」というのが彼からのご指導で、一番根源にあるものは品だと教わりましたね。

 また、『勧進帳』の富樫左衛門は初役でしたので、海老蔵さんは富樫も弁慶もされているから「教えてください」と言ったら、「俺、弁慶もやらなきゃいけないから大変だなぁ」とおっしゃっていました(一同笑)。言葉とは裏腹にすごく丁寧に教えてくれました。歌舞伎十八番ものですから、経験をお持ちの海老蔵さんに習うのも大切ですし、師匠の考え方も大事だと思います。その辺りを合わせて、今回は、自分なりに演じていきたいですね。(右近に)『鳴神』は見たことある?

右近:ない。

右團次:ちょっと理解が難しい演目ではありますよね、ハニートラップがある大人な感じかと(笑)。せがれにはまだ早いかなと思っています。高貴なお坊さんではあるのですが、世間を知らない愛嬌はお客さんの気持ちをつかむものだと思います。探求心がある一面も鳴神上人の魅力ですが、その結果、騙されて怒りが爆発する。そのバランスやダイナミックさ、繊細さを表現できればと思っています。

舞台で立ち回りする時はかっこいい

市川右近=岸隆子 撮影拡大市川右近=岸隆子 撮影

――右團次さんは、右近さんにどういう役者になってほしいですか。

右團次:3歳の時に「歌舞伎俳優になりたい?」と聞いたら、彼は「なりたい」と。おそらく、そのころから歌舞伎俳優になるのは命の基本にあると思うんです。(右近に)大丈夫?気が変わってないよね?(笑)。

 なんで3歳の時に聞いたかといえば、好きじゃないと稽古にも耐えられないし、逆にかわいそう。歌舞伎俳優の息子に生まれても、歌舞伎を続けない子はもちろんいるんです。声変わりの時期とかに、再度、歌舞伎を続けていくかと考える機会もある。まだまだこれからどうなるかは分からないのですが、根底に歌舞伎が好きだという気持ちや、お客さまの声援を受けて、役者としての喜びも持っているので、そういうところをできる限り伸ばしてやりたい。僕も若いころは女形もやっていましたし、彼はこれから、女形も立ち役も経験していくわけです。立ち役になるかもしれませんが、兼ねる役者にもなってほしいと思いますし、彼自身が決めてくれれば。何がやりたい?

右近:『義経千本桜』の(源九郎)狐。

右團次:彼は僕がやったのは映像でしか見ていない。僕も最初に憧れたのは師匠の源九郎狐でした。澤瀉屋の役者として育ってほしいですし、けれんみのあるものも出来て、早変わりや宙乗りもこなせる役者に育ってほしいなと、段々、体が動かなくなってきた僕は思うわけです(笑)。

――お父さんは右近さんから見て、どうですか。

右近:舞台で立ち回りする時はかっこいい。

右團次:僕が入れ知恵したみたいですね(一同笑)。

右近:今日はどうもありがとうございました。

◆公演情報◆
『伝統芸能 華の舞』
一、楠木正成二題
能楽 独調『楠露』
素踊り『楠公』
二、歌舞伎 十八番の内
『鳴神』
※公演スケジュールはホームページでご確認ください。
公式ホームページ
[出演]
市川右團次、市川笑三郎、大谷廣松、市川右近、市川弘太郎

筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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