「買い物難民」の労苦をなくすために、大流通資本は小型スーパーの出店を
「大店立地法」施行から21年、当事者としての固有の義務
杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)
古代ギリシャ時代、アリストファネスが書いた喜劇『女の議会』は有名である。戦争に明け暮れる男たちに対し、妻たちがストライキを起こす話である。一方、日本では今でも国会は「男の議会」である。閣議もまた然り。
日常の買い物で苦労する人たち──多くは高齢者、なかでも女性──のことなど、ほとんど政治的な課題と意識されないのは、こうした事実にもよるのであろう。
河野太郎総裁選候補の視察
それだけに、自民党総裁選にからみ、河野太郎氏が都心の移動スーパーを訪れて「買い物難民」層の視察をしたという報道は新鮮に感じられた。
同問題にことよせつつ「デジタル化」推進を目指そうとする様子がかいま見られたが、近年、買い物難民層の困難などほとんど論じられない状況下で、これに焦点をあてた事実は評価できよう。

移動スーパーを視察した河野太郎行政改革相(中央、当時)。左は小泉進次郎環境相(当時)=2021年9月27日、東京都新宿区
私はその後の自民党新政権の施政方針、総選挙に向けた与野党の政策提言等を注視しているが、河野氏の問題提起は満足に顧みられていないようである。新政権は河野氏を入閣させず、氏の問題提起は宙に浮いた形である。弱者に寄りそう姿勢を示す野党の中にも、問題提起を真剣に受けとめる様子は見られない。
生まれ続ける買い物難民層
現状を思えば、これはとうてい理解しがたい事態である。
商店街の衰退は1980~90年代から見られたが、大型店の出店をフリーハンドで認めた「大規模小売店舗立地法」施行(2000年)以降は、その傾向ははるかに強まった。既存の商店(街)は壊滅的な影響を受けたが(杉田『「買い物難民」をなくせ!──消える商店街、孤立する高齢者』中公新書ラクレ、2013年、24頁)、同時にスーパーが(時には大型店さえ)競争に負けて撤退する傾向も見られるようになった。
2010年代から言われていたことだが(『週刊東洋経済』2010/3/13号、特集「百貨店・スーパー大閉鎖時代!」、『週刊ダイヤモンド』2012/6/16号、特集「セブン・イオン二強が大攻勢『最後の流通再編』」)、スーパーの再編はかなりの規模で進行したようである。

和歌山県田辺市で=2003年12月、撮影・筆者