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ファスト映画・倍速視聴、「タイパ至上主義」が奪うもの

「情報」ばかりを追い求め、取り逃がす「体験」

天野千尋 映画監督

映画に2時間は「タイパ」が悪い?

 2020年頃から、いわゆる「ファスト映画」の投稿が急増し、問題となっている。「ファスト映画」とは、1本の映画を無断で10分程度に編集して解説し、投稿して広告収益を得るもの。著作権法に違反する可能性が高く、今年6月には初めて逮捕者も出た。

拡大「ファスト映画」をYouTubeに投稿し、著作権法違反の疑いで宮城県警塩釜署に逮捕された容疑者の自宅などから押収された機材=2021月6月
 次から次へと情報を消化しなければいけない今の時代、映画に2時間かけるのはタイムパフォーマンスが悪い(略してタイパが悪い)、短時間でもっと多くの情報を摂取したい、と感じる人が増えているのだろう。

 「ファスト映画」と並んで、近年映画界で物議を醸しているものに「倍速視聴」があるが、これも同じだ。

 最近の映画やドラマは「説明セリフ」が増えていると言われるのも、そんなトレンドの反映だと思う。

 本来「説明セリフ」は、映画のセオリーではダメなものとされる。キャラクターが自然に発する言葉ではなく、作者の意図が前面に出てしまい、とても不自然になるからだ。脚本を書いていると、ラクなのでつい安易に使いがちで、「説明セリフが多すぎる!」などと怒られたりする。

 だが、タイパ良く情報を伝えようとすれば、「言語」を使った方がスムーズだ。「無言の表情から感情を読み取ってください」では時間がかかるし、解釈がズレるかもしれない。そうして、自ずと説明セリフが多用されるようになったのだろう。

 タイパを良くするため、「言語」のボリュームはどんどん増えている。YouTubeの人気動画を見れば、絶え間ないテロップが全てを細かくガイドしてくれる。笑うポイントはここです、解釈はこうです、結末はこうです、とテロップだけ眺めていれば倍速でもだいたい理解できる。そうした言語情報多めのコンテンツに慣れきってしまうと、今度は逆に言語を使わない非効率的なものに違和感を覚え始める。映画の無言のシーンを遅く感じたり、分かりにくいという印象になったりする。

 そんな状況を見下げて、「今は一から十まで説明しないと伝わらない」「昔より想像力が無くなった」などと言う人もいるが、私はそうは思わない。単純に、かつてより情報量が増え、それに伴って発信方法も受信方法も変わってきているということじゃないだろうか。

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筆者

天野千尋

天野千尋(あまの・ちひろ) 映画監督

1982年生まれ。約5年間の会社勤務の後、2009年に映画制作を開始。ぴあフィルムフェスティバルを始め、多数の映画祭に入選・入賞。主な作品に、短編『フィガロの告白』『ガマゴリ・ネバーアイランド』、長編『どうしても触れたくない』、アニメ『紙兎ロペ』の脚本など。19年、『ミセス・ノイズィ』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に選出された。日本映画批評家大賞脚本賞受賞。自ら執筆した小説版『ミセス・ノイズィ』(実業之日本社文庫)も刊行。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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