世間で行われる“アンケート調査”への疑問
2021年10月20日
今年もまた、都道府県「魅力度ランキング」が公表された(朝日新聞2021年10月10日付)。それを見る限り、去年(2020年)同様に上位よりもむしろ下位、最下位が話題になっている。同ランキングについては、これまでかなり報道されており、下位もしくは最下位にランクづけされた県では、知事や職員がかなり神経をすり減らしていると感じられた。
昨年、最下位と評価された栃木県の知事は、ランキングを公表したA社に指標の適正さについて直談判に行き、40位だった群馬県の知事は、同ランキングの検証チームを県庁内に設置したという(同2020年11月19日付)。一方、それまで最下位が続いた茨城県は、結果を逆手にとって、観光PR誌『魅力度最下位の過ごし方』を作った。
いずれにせよこの騒ぎに私は苦笑してしまう。なぜなら、「魅力度ランキング」には学問的に見て多々問題があるからである。
世間では各種のアンケート結果が公表され、利用されているが、本来、アンケート調査は素人にできるような代物ではない。同調査法は1930年代からの苦渋に満ちた試行錯誤・理論化の努力の上にはじめて定着したのであって、これを実施するには、それなりの訓練と経験が必要である。
だが「魅力度ランキング」を含めほとんどのアンケート調査は、学問的成果を無視しているように見える。いやそもそも調査者が、それを知らないことが多いように思われる。
以下、主に抽出法にふれながら(字数の都合上、調査票作成法・調査票回収後の分析法等までは扱えない)、同上ランキングを含むアンケート調査の問題性について記してみたい。
だが、対象者全員に調査票を送ることが、経費的にも時間的にも不可能なほどに集団が大きい場合にはどうするか。その集団(これを母集団という)の内から、一部の人(これを標本あるいはサンプルという)を、学問的に確立した手法によって抽出した場合には、彼らを母集団の縮図と見なすことができる。こうした調査法を標本調査という。
例えば内閣支持率を確かめる場合、母集団は日本の有権者全員である。全員に調査票は送れないため、その内から抽出した一定数のサンプル──サンプル数を増やせば精度は高まるが、統計学的には多ければよいというものではない──に送るが、サンプルは無作為で、かつ等しい確率で抽出しなければならない。
母集団が有権者全員だと話が面倒になるので、小さな自治体(有権者1万人)を例にして、よく使われる手法を簡単に紹介する。
1万人の意見を調べるために100人のサンプルを抽出するとする。そのためには、まず母集団に1番~1万番の通し番号をつける。そして乱数表(無作為性が担保されればサイコロでも可)を使って1番~100番の内から1人を選ぶ。それが25番だったとしよう。次は残り99人を選ぶために25番に100ずつ数字を足して行き、125番、225番……9925番の人をサンプルとする(この手法を等間隔抽出法という)。
これが、学問的に確定された抽出法の例である。
一方、内閣支持率を探るために、例えばある平日の午後、渋谷駅前を歩く人100人に質問をするとする。作業は楽だし経費もほとんど不要だが、これは最悪の手法である。
平日に同駅前に集まるのは、一定の年齢層・階層の人々であろう。年齢的には若い人が多いだろう。階層的には(昼食時や出退勤時をのぞく時間帯なら)フルタイマーは少ないだろう。また人ごみを嫌う人も少ないだろう。場所がら「ミーハー」的な文化を好む人が多いだろう、等々。
こうした偏った特性をもつ限り、彼らは日本の有権者一般(母集団)のサンプルとは見なせない。
前置きが長くなったが、以上を知れば「魅力度ランキング」の問題性が分かるだろう。
まず同調査では、
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