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それでも日本人はあの世を信じる──死者を通じて死と向き合う信仰

[12]リアリティをなくしつつある浄土という世界

薄井秀夫 (株)寺院デザイン代表取締役

あの世を信じる現代人

sarayut_sy/Shutterstock.com拡大sarayut_sy/Shutterstock.com

 現代社会は、科学的な価値観が中心となって成立している。非科学的な考えは、あまり受け入れられない。死者がどこかに存在しているとか、死者が行く場所がどこかにあるといった考えは、リアリティをもつことができない、そう考えるのが自然である。

 私が代表を務める株式会社寺院デザインでは、この8月にコロナ禍がどう葬送に対する意識に影響しているのかを調べるため意識調査を行った。そのレポートは、この論座でも報告させていただいた。

 この調査では、〈亡くなった家族は、どこにいると思いますか?〉という質問も設定した。人は死んだらどこに行くのかということである。

【亡くなった家族は、どこにいると思いますか?(複数回答可)】 (現代人のあの世観を調査)拡大【亡くなった家族は、どこにいると思いますか?(複数回答可)】(現代人のあの世観を調査)

 この回答であるが、予想に反して、多岐にわたる回答分布となった。

 最も多いのは〈あの世にいる〉の35.0%、次いで多いのが〈浄土にいる〉の29.3%だった。

 私は、〈あの世にいる〉という回答が多いことは予想していたが、〈浄土にいる〉という回答は、かなり少ないのではないかと予想していた。〈浄土〉という言葉はかなり宗教的な言葉で、なんとなく仏教徒になっているような人達には、あまり馴染みが無いのかなと思ったのだ。ほとんどの人は、明確に仏教の影響がある〈浄土〉ではなく、特定の宗教の影響の少ない〈あの世〉という言葉のほうに親しみがあるのではないかということである。

 結果は、〈あの世〉のほうが多かったが、〈浄土〉も決して少なくない人が選択している。

 もちろん、〈浄土〉を選んだ人の全てが、仏教の教義的な〈浄土〉を理解した上で選択しているわけではないが、まだまだ〈浄土〉という言葉が市民権を得ていることは発見だった。

 一方、〈死んだらすべて無くなるので、どこにもいない〉という選択肢を選んだ人は、24.5%だった。〈あの世〉〈浄土〉に比べれば若干少ないが、それほど差があるわけではない。ただ、これをどう評価するかは、難しいところである。

 現代においては、ほとんどの人が科学的な価値観を持っている。〈死んだらすべて無くなる〉が100%でもおかしくないはずである。そう考えると24.5%という数字は決して多いとは言えないだろう。

 この意識調査では、お盆にどんな行動をしているかを聞く設問もある。

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筆者

薄井秀夫

薄井秀夫(うすい・ひでお) (株)寺院デザイン代表取締役

1966年生まれ。東北大学文学部卒業(宗教学専攻)。中外日報社、鎌倉新書を経て、2007年、寺の運営コンサルティング会社「寺院デザイン」を設立。著書に『葬祭業界で働く』(共著、ぺりかん社)、 『10年後のお寺をデザインする――寺院仏教のススメ』(鎌倉新書)、『人の集まるお寺のつくり方――檀家の帰属意識をどう高めるか、新しい人々をどう惹きつけるか』(鎌倉新書)など。noteにてマガジン「葬式仏教の研究」を連載中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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