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「不要不急」と言われたアートがウイズコロナ時代の地域の未来を拓く

奥能登国際芸術祭・北アルプス国際芸術祭 二つの地域芸術祭の開催から見えてくるもの

前田礼 コーディネーター/アートフロントギャラリー

コミュニティの力が芸術祭を可能にした

 2020年、新型コロナウィルスの感染拡大の影響は、さいはての珠洲にも及び、2回目の芸術祭は1年の延期を余儀なくされた。今年の9月4日に開幕したものの、石川県全県に適用された「まん延防止等重点措置」のため、一般公開は屋外作品など一部に限定された。まん延防止措置の解除を受け、10月1日になってようやく屋内作品を含むすべての作品が公開となった。

 安全対策は徹底している。芸術祭を訪れた人はまず、市内5カ所に設けられた検温スポットに立ち寄り、体温測定・体調確認する。その後、QRコード付きのリストバンドを装着し、各作品会場の受付でチェックを受けるという仕組みだ。リストバンドは地域の人たちが安心して外来者を受け入れるための目印でもある。

 実際に各会場をまわると、その多くでお年寄りのサポーターが来場者を迎え入れ、作品の説明や会場の案内をしてくれることに驚く。マスク越しだが、明らかに前回の芸術祭でサポーターとして活動していた方だとわかり、声をかけると、嬉しそうに答えてくれる。「ああ、芸術祭が戻ってきたんだ」という実感が体の内からこみあげてきた。コロナ禍の中でも浮足立っていない、しっとりとした空気が、会場にもまち全体にも感じられるのだ。

 その背景には、珠洲市では12歳以上の対象者のほぼ全員がワクチン接種を終えているということもあるが、それ以上にコミュニティの力と言えるものがあるように思う。珠洲には江戸時代から続く10の地区があるが、それが現在の公民館の範囲と同じで、それぞれが祭りを軸に緊密な共同体を形成している。芸術祭では、第1回からこの公民館単位に丁寧に説明会を繰り返し、今回も同様に進められてきた。

 コロナ禍は、見えないウィルスへの恐怖が、人と人とを隔て、孤立させた。しかしここ珠洲では、古くからのコミュニティが、人々の過剰な恐れを和らげ、芸術祭が分断された人と人を再びつなぎ直す機会となることへの理解と期待を、静かに醸成していったのではないだろうか。

場所の記憶に触発された作品たち

 幾つか作品を紹介しよう。前回から残る作品を含め、16の国と地域から53組のアーティストによる作品が、廃校、空家、かつての駅舎や工場、海辺の小屋など、蓄積された時間の痕跡が残る場所で珠洲全域に展開している。

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拡大塩田千春「時を運ぶ船」 第1回で制作された作品で、今も大切に展示される。海を望む旧保育所に、塩田に敷き詰める砂を運ぶのに使われた舟から赤い糸を張り巡らせ、塩づくりの技術を今に伝えてきた人々の歴史と記憶を紡ぐ。アーティストの塩田は、文字通り、珠洲の塩田に縁を感じたという。©JASPAR,Tokyo,2021 and Chiharu Shiota
拡大山本基《記憶への回廊》 旧保育所。青い波が押し寄せる迷宮のような空間を進んでいくと、奥に塩でできた階段が現れる。妻を亡くしたアーティストは、娘を連れて制作に通った。途中で崩れている空へ向かう階段は、亡き者への思いを象徴する。Photo:Kichiro Okamura
拡大オスカール大岩《植木鉢》 廃線となったのと鉄道の旧駅に、地元の焼酎蒸留所で不要になったタンクをリサイクルして植木鉢とし、秋に紅葉する植物を植え、やがては紅葉狩りの名所にしようという試み。Photo:Kichiro Okamura
拡大スボード・グプタ《私のこと考えて》  古来より日本海に面し強風と荒波に見舞われる外浦の海岸には、大陸からさまざまな漂流物が流れ着く。かつては寄り神として祀られたそれらは、いまはそのほとんどがプラスチックごみである。Photo:Kichiro Okamura

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筆者

前田礼

前田礼(まえだ・れい) コーディネーター/アートフロントギャラリー

東京大学大学院総合文化研究科博士課程(フランス語圏カリブ海文学専攻)在学中より「アパルトヘイト否(ノン)!国際美術展」事務局で活動。アートフロントギャラリー勤務。クラブヒルサイド・コーディネーター。市原湖畔美術館館長代理。「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」「ヨーロッパ・アジア・パシフィック建築の新潮流」等の展覧会やプロジェクトに関わる。『代官山ヒルサイドテラス通信』企画編集。著書に『ヒルサイドテラス物語―朝倉家と代官山のまちづくり』(現代企画室)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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