世界の平和を守ることから多様な正義のぶつかり合いへ
「NHKで、しかも“歴史秘話ヒストリア”で、仮面ライダー!?」となれば、見ないわけにはいかない。実際の番組の内容は、初代ライダーから現在放映中の最新仮面ライダーまで、まさに「これまでの仮面ライダー、すべて見せます!」であった。
それぞれのライダーたちを短いショットではあったものの、得意の変身ポーズやキックシーンを軸に、ざーっと映し出していた。一時期に何人ものライダーが登場するシリーズもあったらしく、結局現在までに登場した「ライダー」は100人を超えるらしい。
司会を務めていた渡邊あゆみさんが写真(以下)の通りの和服の帯の上に変身ベルトを巻いて「大人も付けられます、へんしーん」と、実際にその素振りを披露するという力の入れようだった。民放で放映されていた仮面ライダーがNHKを乗っ取ったのか!? と思えるほどの、全面協力体制で作られていた。

NHK「歴史秘話 仮面ライダーヒストリア」(中央は渡邊あゆみアナウンサー)=NHK提供 ©石森プロ・東映 ©東映・東映ビデオ・石森プロ ©石森プロ・テレビ朝日・ADK EM・東映
初代の頃は知っていても、「その後の変遷」を事細かにすべて知るよほどのライダーファン以外がおそらく抱くであろう「で、結局、今までどんな変遷を経ていたの? 今のライダーってどんな感じ?」という疑問に答える、そんな番組に仕上がっていた。
仮面ライダーがその存在意義を輝かすために、必ず必要なのが「戦う相手」である。初代の頃は、テーマソング通り「世界征服を企てる、悪の秘密結社」がその相手で、その構図は正義vs悪という「勧善懲悪」、非常にシンプルな二項対立でわかりやすいものだった。
その戦いの構図、つまり仮面ライダーが戦う相手は、その時代時代の現実社会を鏡映しするかのように、変わってきているというのが番組の一つのメッセージであった。
仮面ライダーは(大方)悪の集団に改造されて変身できるようになったという初期の頃の設定は、途中から「そのベルトを付ければ変身できる」という形になったようだ。
例えば、2000年放映の「仮面ライダークウガ」は、古代遺跡から発見されたベルトで変身でき、戦う相手はやはり古代から復活してきた人間狩りをする集団だという。ここで時間軸を超えて悪がやってくる、そして、ライダーの側も時代を超えたベルトで変身し、その悪と戦うという新しいフレームが描写された。しかし、まだこのあたりでは悪は悪として存在していた。
2002年の「仮面ライダー龍騎」では、13名の仮面ライダーがそれぞれの正義のために、勝ち残るまで戦い合うという構図まで生まれた。ライダーvs悪という構図が崩れたのだ。正義は唯一無二ではない、「各自の正義のぶつかり合い」が描かれた。
2009年の「仮面ライダーW」では、普通の町の人々がガイアメモリで怪人に変身する。例えば、リストラされた青年がその恨みを理由に、といった具合に人間の内面が怪人を生み出すという設定だ。戦う相手は遂に「心の闇」にまで及んだ。

Mercury Green/Shutterstock.com
この「心の闇」と戦う仮面ライダーを見て、もしかすると「勧善懲悪」の仮面ライダーで育った世代は、そのままそこで止まってしまっており「社会の動き、変化」に仮面ライダーほど気づけていないのではないか? と思えてきた。この番組を
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