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世界的な人口減少時代がやって来る──『世界100年カレンダー』の衝撃

駒井 稔 編集者

人口減少で世界の見取り図が激変する

 いささか手前味噌になってしまいますが、光文社古典新訳文庫でマルサスの『人口論』(斉藤悦則訳)を2011年に刊行しました。人口について書かれた古典中の古典ですが、翻訳された原稿を読みながら、印象に残ったのは、第二章の冒頭にある有名な一節です。

人口は、何の抑制もなければ等比級数的に増加する。一方、人間の生活物資の増え方は等差級数的である。
こういう私の見解が正しいかどうか、いっしょに検討しよう。

 この言葉はどこかでお聞きになったことがあるのではないでしょうか。簡単に言えば、人口の急激な増加に対して食糧は十分に増えないということです。私たちのみならず、20世紀を生きた人間の思考の前提になり、呪縛となっていた感があります。もちろんこの書物が書かれたのが1798年だということは忘れてはいけませんが、後で触れる中国で行われた一人っ子政策もマルサスの議論から自由ではなかったと考えるのはそれほど無理があるとは思えません。

河合雅司『世界100年カレンダー──少子高齢化する地球でこれから起きること』(朝日新書)拡大河合雅司『世界100年カレンダー──少子高齢化する地球でこれから起きること』(朝日新書)
 その『未来の年表』を書いた河合雅司さんの新刊『世界100年カレンダー──少子高齢化する地球でこれから起きること』(朝日新書)は、舞台をさらに世界に広げて、少子高齢化と人口動態を分析しています。衝撃的なデータが次々に紹介されますが、なんと人口減少は21世紀には、日本のみならず、世界的な現象になりつつあり、これから人口が増える国でも将来は同じような状態が訪れることが指摘されているのです。あと数十年のうちに本格的な人口減少時代に突入することになるという指摘には正直驚きを禁じ得ませんでした。

 人口増加に関しては、20世紀は人類史に刻まれる「人口爆発の世紀」であったということも知りました。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の「人口統計資料集」の2021年版で国連のデータが紹介されているそうですが、その内容を筆者の河合さんが紹介しています。

 世界人口が10億人に達したのは、1800年代初め。つまりマルサスの『人口論』が書かれた直後になります。ところが、20億人に達したのは130年後の1927年。たった130年で倍になったことになります。農業の生産性が向上し、医療や衛生環境が改善されたことがその理由に挙げられています。

 その約30年後、1960年には30億人。14年後の1974年には40億人になり、1987年には50億人を突破。1999年には60億人になったという驚きの記述があります。しかも特に増えていたのは開発途上国だということです。

 しかし、この急激な人口爆発に変化が訪れます。1970年代前半に年平均の増加率の下落が始まり、これこそが21世紀中に迎える世界人口の減少への転換につながる予兆であり、ターニングポイントであったことを河合さんは指摘します。人口は増えていたけれど、増加率の減少が始まったということです。

 しかも人口減少は日本に限ったことではなく、東アジアではすでに始まっているというのです。中国では生産年齢人口(15歳から64歳までの働くことができる世代)がピークアウトしており、韓国と台湾は2020年に人口減少に転じたというのも興味深い現象です。それでも国連の中位推計(現実的予測)では、2100年には世界人口は108億を超える数字が示されているようですが、これはかなり楽観的な見通しであるようですし、人口増加率は鈍化しているのです。

 この指摘は、いままで未来の世界人口はまだまだ増え続けるのだと漠然と考えていた私には衝撃的でした。さらには同じ国連の中位推計によれば、21世紀の前半に起きる最大の変化があります。人口集積地が東アジア・東南アジアから西へ移ることです。具体的にはサハラ砂漠より南にあるアフリカ諸国の人口が2100年には世界人口の3分の1にまでなるというのですから驚きます。いままでの世界の見取り図が激変するのを目の当たりにすることになるのです。自らの想像力を駆使して未来を考えなければならない時代だと痛感しました。

こうした世界人口のバランスの変化は、世界情勢にも大きな影響を及ぼし、2100年時点の人口ランキングのトップ10はインド、ナイジェリア、中国、米国、パキスタン、コンゴ民主共和国、インドネシア、エチオピア、エジプト、タンザニアとなる。

 これは米国ワシントン大学保健指標・保健評価研究所(IHME)の研究チームの予測だそうですが、全く違う世界が見えてきませんか。

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筆者

駒井 稔

駒井 稔(こまい・みのる) 編集者

1979年、光文社入社。1981年、「週刊宝石」創刊に参加。1997年に翻訳編集部に異動になり、書籍編集に携わる。2004年に編集長。2年の準備期間を経て2006年9月に古典新訳文庫を創刊。「いま、息をしている言葉で」をキャッチフレーズに古典の新訳を刊行開始。10年にわたり編集長を務めた。筋金入りの酔っ払いだったが、只今禁酒中。1956年、横浜生まれ。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです