大型スーパーでは、各種バリアが高齢者を待ちうける
広すぎる店内、動かないエスカレーター、階段、段差……
杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)
自民党総裁選で河野太郎氏が、「買い物難民」層の現状について関心を示した。これは良い着眼だった(ただし規制緩和を通じて彼らを生んだのは自民党政府である)。だが氏は新政権から排除され、そのせっかくの関心は実を結ばなかった。
「買い物難民」の労苦をなくすために、大流通資本は小型スーパーの出店を
河野氏が視察したのは移動販売の現場だった。同業者の努力は貴重だが、これが利用できない人はもちろん、できる人でさえ、時にスーパーに足を運びたいと願うものである。だが、それがいかに困難になっているか。
今、多くの高齢者(特に女性)にとってスーパーまでの距離がバリアになっており、日常の買い物のためだというのに、しばしばバスを、時にはタクシーを使うしかなくなっている。いずれも多くの出費を強いるし(豆腐代の数倍、時には10倍以上)、バスも時には高齢者に負担になるが、ともあれバリアとなった距離を越えられれば幸いである。
だが大型スーパーでは、さらにいろいろなバリアが彼女らを待ちうける。
広すぎる売り場

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現行法では敷地・売り場面積に制約がなくなった。そのため、近年の大型スーパーはとにかく広い。店舗のそばあるいは入り口までバス・タクシーで行けたとしても、店内に入ると、あまりに多くの商品のためのあまりに広い売り場が待っている。広すぎてとても歩けない、目まいがする、という嘆きを私は高齢者から何度も聞いた。
一度に多量の商品を買う場合──バス代・タクシー代を減らすために買い物難民層は買い物の回数を減らすことが多く、自ずと1度の買い物の量が増える──には、つらさは倍増するだろう。だから、高齢者が必要としそうな物をまとめて置いてもらえれば、という要望を聞かされたこともある。
なるほどスーパーには、ふつうカートが用意してある。それにつかまって歩き、商品を持たずに買い物ができる。だが店内が広すぎるという事情は変わらない。広さはしばしば高齢者に立ちはだかるバリアになっている。広い売り場で買い物を終えた後、地べたにへたりこむ高齢者さえいる(写真)。

買い物の後、路上に座り込んだ高齢者=宮崎市、撮影・筆者