広すぎる店内、動かないエスカレーター、階段、段差……
2021年12月02日
自民党総裁選で河野太郎氏が、「買い物難民」層の現状について関心を示した。これは良い着眼だった(ただし規制緩和を通じて彼らを生んだのは自民党政府である)。だが氏は新政権から排除され、そのせっかくの関心は実を結ばなかった。
「買い物難民」の労苦をなくすために、大流通資本は小型スーパーの出店を
河野氏が視察したのは移動販売の現場だった。同業者の努力は貴重だが、これが利用できない人はもちろん、できる人でさえ、時にスーパーに足を運びたいと願うものである。だが、それがいかに困難になっているか。
今、多くの高齢者(特に女性)にとってスーパーまでの距離がバリアになっており、日常の買い物のためだというのに、しばしばバスを、時にはタクシーを使うしかなくなっている。いずれも多くの出費を強いるし(豆腐代の数倍、時には10倍以上)、バスも時には高齢者に負担になるが、ともあれバリアとなった距離を越えられれば幸いである。
だが大型スーパーでは、さらにいろいろなバリアが彼女らを待ちうける。
現行法では敷地・売り場面積に制約がなくなった。そのため、近年の大型スーパーはとにかく広い。店舗のそばあるいは入り口までバス・タクシーで行けたとしても、店内に入ると、あまりに多くの商品のためのあまりに広い売り場が待っている。広すぎてとても歩けない、目まいがする、という嘆きを私は高齢者から何度も聞いた。
一度に多量の商品を買う場合──バス代・タクシー代を減らすために買い物難民層は買い物の回数を減らすことが多く、自ずと1度の買い物の量が増える──には、つらさは倍増するだろう。だから、高齢者が必要としそうな物をまとめて置いてもらえれば、という要望を聞かされたこともある。
なるほどスーパーには、ふつうカートが用意してある。それにつかまって歩き、商品を持たずに買い物ができる。だが店内が広すぎるという事情は変わらない。広さはしばしば高齢者に立ちはだかるバリアになっている。広い売り場で買い物を終えた後、地べたにへたりこむ高齢者さえいる(写真)。
商品がたくさん入ったカゴは、レジでカートから降ろせないことがある。杖等をかかえるために両手でカゴを持てないこともある。レジで難儀している高齢者を時に見かけるが、他の買い物客の善意がなければ(残念だが皆が皆、手を貸してくれるとは限らない)、高齢者はその場でかなりの労苦を強いられる。
精算後、カゴをカートに戻す時も同様である。レジ係がサッカー台(商品をつめかえる台)まで運んでくれることも多いが、そうしてもらえなければ立ち往生する。買い物客が男性であれば、一般に運んでもらえる可能性は少ない。
ちなみに、苦労をするのは高齢者だけではない。最近、精算台で商品が色違いのカゴに入れ替えられることが多いが、そのカゴには取っ手がついていないことがある。万引きを防ぐための処置であろうが、これが買い物客に不便を強いている。
取っ手があれば片手でもカゴを運べるが、取っ手がなければ両手を使うしかない。だが誰もが両手が空いているわけではない。あるスーパーが取っ手のないカゴを採用した際、腕にギプスした女性(25歳前後)が、連れに、「要するに私らには買い物をするなってことね」、ともらすのを耳にしたことがある。
両手が使えない客のことを、店側はどれだけ配慮しただろうか。そもそも両手が使えようが使えまいが、取っ手を腕にかけた方が楽である。重い荷物を両手でおなかの前に抱えれば、その悪影響は腰にくる。
高齢者を苦しめるバリアの一つは、レジでのあわただしさである。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください