2021年12月06日
「東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻」は日本で数少ないストップモーションアニメーション専門教育課程「立体領域」を有する。専任教授は『ニャッキ!』(1995年〜)、『HARBOR TALE ハーバーテイル』(2011年)を制作された伊藤有壱監督である。伊藤教授は、同専攻創設時から13年間で数多くのクリエイターを育成し、日本の近年のストップモーション再興に多大な貢献を果たされてきた。『PUI PUI モルカー』の見里朝希監督も『オイラはビル群』の秦俊子監督も伊藤教授のゼミ出身だ。
日本におけるストップモーション教育の経緯からコロナ禍での大学院とアニメーション制作の現状、そして今後の展望から自身の最新の活動に至るまで、広範に語っていただいた。
伊藤有壱(いとう・ゆういち)
東京都生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。1998年に有限会社I.TOONを設立、同取締役代表を務める。クレイ(粘土)を中心に様々な素材によるストップモーションアニメーションによって、CM・ミュージックビデオ・映画等を監督。日本アニメーション協会理事。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授。ASIFA JAPAN理事。
代表作にNHKEテレのプチプチ・アニメ『ニャッキ!』(1995年〜)、花王ビオレuCM『ビオレママ』シリーズ(2000年~) 、世界初3Dハイビジョンクレイアニメーション作品『THE BOX』(2002年)、宇多田ヒカル『traveling』アニメーションパート(2001年)、平井堅MV『キミはともだち』(2004年)、ダスキン・ミスタードーナツ事業本部CM『ポン・デ・ライオン』シリーズ(2004年)、わかさ生活CM『ブルーベリーアイ』シリーズ(2005年~)、松竹110周年記念作品『ノラビッツ・ミニッツ』(2006年)、ネオクラフトアニメーション『HARBOR TALE ハーバーテイル』(2011年)など多数。2021年に『HARBOR TALE』10周年記念DVD付書籍『ハーバーテイルのすべて』出版のクラウドファンディングに取り組み、188%の資金を達成。書籍は12月10日に発売予定。12月3日より12日まで「ハーバーテイルのすべて展」が開催中。
『HARBOR TALE ハーバーテイル』(2011年)
監督/伊藤有壱
上映時間18分5秒
横浜をモデルとした「港町Y」の建物の端から抜け出したひとかけらのレンガの冒険を描く。様々な素材を用いてストップモーションとデジタルを融合したネオクラフトアニメーションとして制作された。2012年、チェコのZLIN国際映画祭で最優秀アニメーション賞・観客賞、ASIAGRAPHで最優秀作品賞、2013年、シアトル国際児童映画祭で最優秀ショートアニメーション賞ほかを受賞。世界24カ国で上映された。2014年には続編『Blue Eyes─in HARBOR TALE─』が公開された。
「ハーバーテイルのすべて展 THE TALE OF HARBOR TALE」
会期 12月3日(金)〜12日(日) 入場無料
時間 11:00~18:00 ※トークイベント開催時は19:00まで
会場 横浜赤レンガ倉庫1号館2階、スペースA
主催 I.TOON Ltd.
特設サイト
『ハーバーテイル』劇場上映とトーク
シネマ・ジャック&ベティ(横浜市)
会期 12月10日(金)〜16日(木)
1990年の広島国際アニメーションフェスティバルで、ニック・パーク監督の『ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー』(1989年)を観て強い衝撃を受けました。
1980年代以降はスティーブン・スピルバーグ監督の作品に代表される精緻な特撮やデジタル技術による新しいヴィジュアル・エフェクツが次々と生まれて、映画界を席巻していたわけです。そんな時代の趨勢とは真逆の、指紋ペタペタのクレイ(粘土)作品がこんなに会場を沸かせるのかと。私自身の作品もコンペインしていたのですが、圧倒されてしまいました。それ以前からCMでストップモーションはたくさんやっていたわけですが、さらに興味が高まり、世界各国の映画祭で様々な作品を観て大変刺激を受けました。
白組やその後勤めたCGスタジオでは個人の作品を作ることが困難な環境でした。1994年に会社を辞めて、アードマン・アニメーションズ(『ウォレスとグルミット』『ひつじのショーン』などを制作したイギリスの老舗ストップモーションスタジオ)を訪ねました。
2003年にドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭に『THE BOX』を出品しました。そこで『Rocks(原題/DAS RAD)』(2001年、Fur Arvid、Ein Film von、Chris Stenner、Arvid Uibel、Heidi Wittlinger監督)という時間をテーマとしたストップモーション作品に出会い、打ちのめされました。制作は若い学生たちでした。その時に「ストップモーションの教育機関がない日本では、このような作品が生まれることはないのではないか」と思ったのです。
各専門学校のアニメーション科では、スタジオに就職するという目的の上にドローイング(手描き)による「セルアニメ」の作り方を教えています。その課程を一部採り入れている美術大学もありましたが、立体によるストップモーションアニメーションを教える機関はほとんどありませんでした。新しい世代を育てないと、日本のストップモーションは絶滅してしまうのではないかと思っていました。
その後、母校の藝大の研究課長から声をかけて頂きました。
「東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻」は2008年にスタートしました。私は立体領域専任の教員に就任しました。個人的にも2006年に横浜に拠点を移しており、横浜市の誘致によってキャンパスを持てることになり、継続的な助成という幸運にも恵まれました。
世界のアニメーション教育から完全に取り残されていた日本が、ようやく大学院で専門教育を行えるということは、実に画期的なことでした。
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