メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

ストップモーションを教える教育機関がなかった日本

伊藤有壱氏=撮影・筆者拡大伊藤有壱氏=撮影・筆者
 私はストップモーションのスタジオ出身ではなく、「白組」という特撮スタジオで働いていました。テクニカル・ディレクターとしてヴィジュアル・エフェクトとアニメーションを並行して活用したCMを作り、時には実写と合成する技術も使っていました。そこではあらゆる手法のアニメーション技法を使いまして、その中にストップモーションもありました。

 1990年の広島国際アニメーションフェスティバルで、ニック・パーク監督の『ウォレスとグルミット チーズ・ホリデー』(1989年)を観て強い衝撃を受けました。

 1980年代以降はスティーブン・スピルバーグ監督の作品に代表される精緻な特撮やデジタル技術による新しいヴィジュアル・エフェクツが次々と生まれて、映画界を席巻していたわけです。そんな時代の趨勢とは真逆の、指紋ペタペタのクレイ(粘土)作品がこんなに会場を沸かせるのかと。私自身の作品もコンペインしていたのですが、圧倒されてしまいました。それ以前からCMでストップモーションはたくさんやっていたわけですが、さらに興味が高まり、世界各国の映画祭で様々な作品を観て大変刺激を受けました。

 白組やその後勤めたCGスタジオでは個人の作品を作ることが困難な環境でした。1994年に会社を辞めて、アードマン・アニメーションズ(『ウォレスとグルミット』『ひつじのショーン』などを制作したイギリスの老舗ストップモーションスタジオ)を訪ねました。

横浜赤レンガ倉庫で開催中の「ハーバーテイルのすべて」展入口拡大「ハーバーテイルのすべて展」入口=撮影・筆者
 1995年に「自分もクレイを使って何かやってみたい」と一念発起して取り組んだのが『ニャッキ!』でした。以降も自己流で経験値を蓄積しながら、2002年にはNHKとの合同制作でクレイとしては両眼で見られる初めての世界初の立体作品『THE BOX』を制作しています。

 2003年にドイツのシュトゥットガルト国際アニメーション映画祭に『THE BOX』を出品しました。そこで『Rocks(原題/DAS RAD)』(2001年、Fur Arvid、Ein Film von、Chris Stenner、Arvid Uibel、Heidi Wittlinger監督)という時間をテーマとしたストップモーション作品に出会い、打ちのめされました。制作は若い学生たちでした。その時に「ストップモーションの教育機関がない日本では、このような作品が生まれることはないのではないか」と思ったのです。

 各専門学校のアニメーション科では、スタジオに就職するという目的の上にドローイング(手描き)による「セルアニメ」の作り方を教えています。その課程を一部採り入れている美術大学もありましたが、立体によるストップモーションアニメーションを教える機関はほとんどありませんでした。新しい世代を育てないと、日本のストップモーションは絶滅してしまうのではないかと思っていました。

 その後、母校の藝大の研究課長から声をかけて頂きました。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

叶精二

叶精二(かのう・せいじ) 映像研究家、亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師

映像研究家。亜細亜大学・大正大学・女子美術大学・東京工学院講師。高畑勲・宮崎駿作品研究所代表。著書に『宮崎駿全書』(フィルムアート社)、「『アナと雪の女王』の光と影」(七つ森書館)、『日本のアニメーションを築いた人々 新版』(復刊ドットコム)、編著に『ルパン三世 PART1 絵コンテ集 「TV 1st series」秘蔵資料コレクション』(双葉社)、共著に『王と鳥 スタジオジブリの原点』(大月書店)、『マンガで探検! アニメーションのひみつ』(全3巻、大月書店)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

叶精二の記事

もっと見る