メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

【古川日出男・新連載】音楽が禁じられたアフガニスタンと「私」をつなげてみる

越境する力を恐れる社会、その居心地の悪さ

古川日出男 小説家

歌手殺害に衝撃を受けた

 ここには演劇という芸術形態に対するスタンスもある。

 たとえば我が国の歌舞伎の歴史が、初めは女歌舞伎(女性が主役である)からスタートしたのに、それが「風紀を乱す」との理由で江戸幕府に禁止されて、男性のみが出演する舞台芸術に変わった、現在でも歌舞伎は「女優出演を禁じている」のだと説いたら、女歌舞伎を禁制にした寛永年間の江戸幕府は、いま現在のアフガニスタンのタリバンと同じだ、と感じないでいるほうが難しい。

 だが、だからといって「歌舞伎の伝統を変えろ」と訴えたり、「そもそも女優という言葉が差別的だ。この記事に『女優』と書いたりするな」と批判されたりしたとしたら、そうした伝統や文化の厚みが生んだ「言葉」とはいったい何か、ということまで、もっと徹底して考えなければならない。

 少なくとも、伝統・文化については思考することが要る。なぜならば、タリバンのアフガニスタン支配が成り立った直後の時期、私がもっともショックを受けたのは、ひとりの民謡歌手が殺害されたという事件だったからだ。

拡大2016年のカブールの露店。音楽CDやDVDがたくさん売られていた
 タリバンは「音楽はイスラムの教えに反する」と主張している。これは彼らがそのようにイスラム教を解釈している、ということなのだけれども、それからまた、彼らの言う「良い音楽」は別枠で扱われているのだけれども(この「良い音楽」とは、果たせるかな、一部の宗教的な歌である)、土地に根ざした音楽を演奏して、土地を褒めたたえる歌詞の乗った歌をうたう人間が、タリバンの戦闘員に殺害されるというのは、結局のところ「タリバンはアフガニスタンという土地に対して、何をしようとしているのだ?」と私を苦みばかりの感情に突き落とした。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

古川日出男

古川日出男(ふるかわ・ひでお) 小説家

1966年生まれ。1998年、長篇小説『13』でデビュー。『アラビアの夜の種族』(2001年)で日本推理作家協会賞と日本SF大賞を受賞。『LOVE』(05年)で三島由紀夫賞、『女たち三百人の裏切りの書』(15年)で野間文芸新人賞、読売文学賞。他に『サウンドトラック』(03年)、『ベルカ、吠えないのか?』(05年)、『聖家族』(08年)、『南無ロックンロール二十一部経』(13年)など。11年、東日本大震災と原発事故を踏まえた『馬たちよ、それでも光は無垢で』を発表、21年には被災地360キロを歩いたルポ『ゼロエフ』を刊行した。『平家物語』現代語全訳(16年)。「群像」で小説『の、すべて』連載中。「新潮」(2022年4月号)に戯曲『あたしのインサイドのすさまじき』を発表した。新刊『曼陀羅華X』(新潮社、3月15日刊行)。音楽、演劇など他分野とのコラボレーションも多い。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

古川日出男の記事

もっと見る