宇宙観光を好意的に捉えるメディアと世間の環境意識の低さ
2021年12月16日
衣料品通販大手ZOZO創業者でスタートトゥデイ社長の前澤友作氏が乗り込んだロシアの宇宙船ソユーズが、2021年12月8日に打ち上げられ、国際宇宙ステーション(ISS)へのドッキングに成功しました。
前澤氏は12日間、日本の民間人として初めてISSに滞在する予定です。日本における宇宙観光の幕開けとも言えるこのニュースは、テレビ等の報道でも大々的に取り上げられました。
ですが、地球環境に負荷を与える様々な物質を排出するロケットでの宇宙観光は、環境問題や気候危機の観点から見れば「悪行」として扱うべきものだと思います。
たとえば、フランスの宇宙物理学者ロラン・ルゥク氏の分析によると、ヴァージン・ギャラクティックの宇宙船は乗客1人当たりの二酸化炭素排出量が4.5トンに上るとのことです。これは、2015年のCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で採択されたパリ協定の目標を達するために推奨される1人当たりの年間排出量の倍以上だそうです。また、いくつかの排出物が、オゾン層に悪影響を与える可能性も高いと言われています。
観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せることを「オーバーツーリズム」と言いますが、たった1人でも地球環境に大きな負担をもたらす宇宙観光は、その存在自体が「オーバーツーリズム」だと言えるのではないでしょうか。
環境活動家のグレタ・トゥーンベリさんが、移動をする際に二酸化炭素の排出量が多い飛行機を使わずに電車を利用するアクションがきっかけで、飛行機による移動は「飛び恥(フライトシェイム」」と呼ばれるようになり、ヨーロッパの一部の若者の間では、大きなムーブメントとなっています。
前述の分析が正しいとすると、ロケット旅行の環境への負荷は、飛行機旅行よりもはるかに大きいわけですから、前澤氏のしたことは「飛び恥の極み」「飛び大恥」のように思うのです。
宇宙観光ビジネスに対して、海外では批判的な声も大きくなっています。たとえば、イギリスのウィリアム王子も10月14日、BBCの番組のインタビューで「起業家は宇宙旅行よりも、地球を救うことに集中するべきだ」と、苦言を呈しました。
気候危機で地球という船が沈みかねない状況にもかかわらず、アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏をはじめ、本来は社会的責任を担うべき起業家たちが続々と、地球への負荷を強める「バッドアクション」をしているわけです。
権力や財力、社会的地位をもつ者には責任が伴うというノブレス・オブリージュの視点で考えれば、社会的責任を全うしない起業家のエゴに釘を刺すウィリアム王子のコメントは真っ当だと思います。
一方で、あくまで私が見た限りですが、前澤氏に関する日本の報道では、好意的なものが多く、批判的な視点がほとんど見られませんでした。環境問題が選挙の主要争点にならない日本は、「環境に対する意識が先進国の中でも低い」と言われていますが、前澤氏に批判的な視点が欠けているのもこうした意識の表れだと思います。
そして、おそらく「それ相応のお金をしっかり払っているのだから、個人の自由だろう」と考える人が多いのでしょう。
ですが、
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください