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[2021年 映画ベスト5]ドキュメンタリーの巨匠たちと女性監督の活躍

古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1.『ボストン市庁舎』(フレデリック・ワイズマン監督)
2.『水俣曼荼羅』(原一男監督)
3.『いとみち』(横浜聡子監督)
4.『チャンシルさんには福が多いね』 (キム・チョヒ監督)
5.『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督)
次点『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)、『明日の食卓』(瀬々敬久監督)、『由宇子の天秤』(春本雄二郎監督)、『ONODA 一万夜を越えて』(アルチュール・アラリ監督)、『ミセス・ノイズィ』(天野千尋監督)、『17歳の瞳に映る世界』(エリザ・ヒットマン監督)、『ペトルーニャに祝福を』(テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督)、『アメリカン・ユートピア』(スパイク・リー監督)

話題:東京国際映画祭の大改革、「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」の4本、「よみがえる台湾語映画の世界」の7本、田中絹代監督作品6本のデジタル復元

 今年は年末にフレデリック・ワイズマンと原一男という日米2人のドキュメンタリーの巨匠の代表作となる新作が公開された。前者は274分、後者は372分の大作だが、最近よく話題になるテレビ出身の監督によるよくできたドキュメンタリーとは明らかにレベルの違う、映画ならではの限りなく豊かな到達点を見せてくれた。

 また、今年は若手女性監督の活躍が目立ったことでも記憶すべき年となるだろう。2017年に始まった#MeTooの運動が世界中でようやく映像として結実し始めている。また昨年に始まった東京国際映画祭の改革が本格的になり、1985年に始まってから初めて「国際的」になったことでも記念すべき年となった。

フレデリック・ワイズマン監督拡大フレデリック・ワイズマン監督
 今年91歳のフレデリック・ワイズマン監督は、ナレーションなし、インタビューなし、伴奏音楽なしで、「ある世界」にひっそりとカメラを向け、みんなが働き、話し、動く様子を時々場所を変えながら静かに重ねてゆく。病院も動物園もオペラ座も美術館も図書館も大学も、まるでカメラマンは透明人間になったように、その中をくるくると動き回り、いつの間にか全体像を浮かび上がらせる。

 今回もボストン市庁舎の仕事の細部を見せる点では同じだが、大きな違いはカメラが外に出て、街全体を見せることだろう。写るのは温暖化問題などのさまざまな外の会議に出る市長であり、市の幹部であり、あるいは道路の舗装をしたり駐車違反切符への異議申し立てに対応したり地層の調査をしたりする市の職員である。

 もう1つ新しいのは、市内の赤レンガの古い建物から最新の高層ビル、木造住宅、港湾、道路、公園など市内のさまざまな場所のショットが挿み込まれることだろう。ボストンは監督が住んでいる街だが、まさに土地への強い愛情が感じられる。

『ボストン市庁舎』(フレデリック・ワイズマン監督) 全国順次公開中 © 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved
拡大『ボストン市庁舎』(フレデリック・ワイズマン監督) 全国順次公開中 © 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

 さらに新しいのは、市長を中心にとらえて称賛していることだろう。ワイズマン監督はスターや中心人物に焦点を当てないで、無名の人々の仕事を見せる。今回もそうだが、それでも市長が会議で話したり、退役軍人会でスピーチをしたりという場面をきっちりと見せ、その素晴らしさを際立たせる。ワイズマンがこのようにストレートに政治的な立場を表明するとは。今回の映画は本気で勝負をかけている。

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筆者

古賀太

古賀太(こが・ふとし) 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)

1961年生まれ。国際交流基金勤務後、朝日新聞社の文化事業部企画委員や文化部記者を経て、2009年より日本大学芸術学部映画学科教授。専門は映画史と映画ビジネス。訳書に『魔術師メリエス――映画の世紀を開いたわが祖父の生涯』(マドレーヌ・マルテット=メリエス著、フィルムアート社)、共著に『日本映画史叢書15 日本映画の誕生』(岩本憲児編、森話社)など。個人ブログ「そして、人生も映画も続く」をほぼ毎日更新中。http://images2.cocolog-nifty.com/

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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