2021年12月20日
1.『ボストン市庁舎』(フレデリック・ワイズマン監督)
2.『水俣曼荼羅』(原一男監督)
3.『いとみち』(横浜聡子監督)
4.『チャンシルさんには福が多いね』 (キム・チョヒ監督)
5.『プロミシング・ヤング・ウーマン』(エメラルド・フェネル監督)
次点『ドライブ・マイ・カー』(濱口竜介監督)、『明日の食卓』(瀬々敬久監督)、『由宇子の天秤』(春本雄二郎監督)、『ONODA 一万夜を越えて』(アルチュール・アラリ監督)、『ミセス・ノイズィ』(天野千尋監督)、『17歳の瞳に映る世界』(エリザ・ヒットマン監督)、『ペトルーニャに祝福を』(テオナ・ストゥルガル・ミテフスカ監督)、『アメリカン・ユートピア』(スパイク・リー監督)
話題:東京国際映画祭の大改革、「ケリー・ライカートの映画たち 漂流のアメリカ」の4本、「よみがえる台湾語映画の世界」の7本、田中絹代監督作品6本のデジタル復元
今年は年末にフレデリック・ワイズマンと原一男という日米2人のドキュメンタリーの巨匠の代表作となる新作が公開された。前者は274分、後者は372分の大作だが、最近よく話題になるテレビ出身の監督によるよくできたドキュメンタリーとは明らかにレベルの違う、映画ならではの限りなく豊かな到達点を見せてくれた。
また、今年は若手女性監督の活躍が目立ったことでも記憶すべき年となるだろう。2017年に始まった#MeTooの運動が世界中でようやく映像として結実し始めている。また昨年に始まった東京国際映画祭の改革が本格的になり、1985年に始まってから初めて「国際的」になったことでも記念すべき年となった。
今回もボストン市庁舎の仕事の細部を見せる点では同じだが、大きな違いはカメラが外に出て、街全体を見せることだろう。写るのは温暖化問題などのさまざまな外の会議に出る市長であり、市の幹部であり、あるいは道路の舗装をしたり駐車違反切符への異議申し立てに対応したり地層の調査をしたりする市の職員である。
もう1つ新しいのは、市内の赤レンガの古い建物から最新の高層ビル、木造住宅、港湾、道路、公園など市内のさまざまな場所のショットが挿み込まれることだろう。ボストンは監督が住んでいる街だが、まさに土地への強い愛情が感じられる。
さらに新しいのは、市長を中心にとらえて称賛していることだろう。ワイズマン監督はスターや中心人物に焦点を当てないで、無名の人々の仕事を見せる。今回もそうだが、それでも市長が会議で話したり、退役軍人会でスピーチをしたりという場面をきっちりと見せ、その素晴らしさを際立たせる。ワイズマンがこのようにストレートに政治的な立場を表明するとは。今回の映画は本気で勝負をかけている。
今年76歳の原一男監督の映画はワイズマンの手法とは180度異なり、自らが時々カメラに映りながら相手に話しかけ、いつの間にかとんでもない話を聞きだしてゆく。この映画が捧げられている土本典昭監督の『水俣―患者さんとその世界』(1971)から50年がたち、なんとなく水俣病は終わったのではないかと思っていたがとんでもない。
まだ患者認定を求めて裁判を起こす人々や、2009年に施行された水俣病被害者救済法に漏れて抗議をする人々が大勢いる。患者と認定された人々も今も苦しみながら生き続けていた。ひときわ輝くのが、70代の患者の生駒秀夫さんと60代の坂本しのぶさん。生駒さんは今もコップ一つ持つにも手が震える。15歳の時に発病し、視野狭窄となった。彼はそれでも結婚相手が見つかった。その話をする生駒さんは実に嬉しそうで「人生初めて嬉しいニュース」と言う。そして監督の質問に答えて新婚初夜で何もできなかったことを大笑いしながら詳細に語った。
坂本しのぶさんは小さい時から今まで車椅子生活だが、実は「恋多き女」だった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください