[2021年 映画ベスト5]ドキュメンタリーの巨匠たちと女性監督の活躍
古賀太 日本大学芸術学部映画学科教授(映画史、映像/アートマネジメント)
『水俣曼荼羅』で輝く患者たち
今年76歳の原一男監督の映画はワイズマンの手法とは180度異なり、自らが時々カメラに映りながら相手に話しかけ、いつの間にかとんでもない話を聞きだしてゆく。この映画が捧げられている土本典昭監督の『水俣―患者さんとその世界』(1971)から50年がたち、なんとなく水俣病は終わったのではないかと思っていたがとんでもない。

『水俣曼荼羅』(原一男監督) 東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムにて上映中(その他の上映劇場は公式サイト【http://docudocu.jp/minamata/】で) ©疾走プロダクション
まだ患者認定を求めて裁判を起こす人々や、2009年に施行された水俣病被害者救済法に漏れて抗議をする人々が大勢いる。患者と認定された人々も今も苦しみながら生き続けていた。ひときわ輝くのが、70代の患者の生駒秀夫さんと60代の坂本しのぶさん。生駒さんは今もコップ一つ持つにも手が震える。15歳の時に発病し、視野狭窄となった。彼はそれでも結婚相手が見つかった。その話をする生駒さんは実に嬉しそうで「人生初めて嬉しいニュース」と言う。そして監督の質問に答えて新婚初夜で何もできなかったことを大笑いしながら詳細に語った。
坂本しのぶさんは小さい時から今まで車椅子生活だが、実は「恋多き女」だった。
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