デンマークの生んだ天才監督、カール・テオドア・ドライヤー(1889~1968)の貴重な特集が、東京・渋谷のシアター・イメージフォーラムほかで開催される(12月25日~)。ラインナップは、サイレント期の名作『裁かるゝジャンヌ』(1928)、後期ドライヤーの代表作『怒りの日』(1943)、『奇跡』(1954)、『ゲアトルーズ』(1964)の4本。いずれも絶品だが、以下では、私が最もインパクトを受けた『奇跡』と『ゲアトルーズ』を中心に、“ドライヤー覚書”を記してみたい。

カール・テオドア・ドライヤー(1889─1968) © Danish Film Institute 「奇跡の映画 カール・テオドア・ドライヤー セレクション」2021年12月25日(土)より、東京・渋谷の「シアター・イメージフォーラム」ほか全国順次公開 配給:ザジフィルムズ
なお、ドライヤーには、しばしば「聖なる」とか「孤高の」という形容詞が冠せられるが、それに騙されてはならない。
たしかに、ドライヤーの映画は映画狂をしびれさせる“神品”だ。しかし同時に、ひたすら面白く美しく感動的な、万人向きの娯楽映画でもある。なのに、その面白さ・美しさ・感動があまりに破格なので、人は動揺し、つい彼を「聖なる……」と呼んでしまう。だから私たちは、ただ無防備に、虚心にドライヤーと向き合えばいいのだ(プロテスタントの福音ルーテル派を国教とするデンマークで生まれ育ったドライヤーは、宗教的主題を好んで取り上げたが、それは彼の映画の素材でしかない。ドライヤー作品が、キリスト教信仰に無縁な者にも訴求するゆえんだ)。