両家の確執と和解ののちに……
『奇跡』
1930年代に時代が設定された『奇跡』は、デンマーク・ユトランド半島の寒村で大農場を営むボーオン一家と、近隣の村の仕立て屋ペーター一家をめぐる確執と和解が、物語の中心である。
それぞれモーテン(ヘンリック・マルベア)とペーター(アイナー・フェーダーシュピール)を家長とする両家は、宗派の異なるキリスト教を信仰しているため、不仲だった。ゆえに、ボーオンの三男アナス(カイ・クリステンセン)がペーターの娘アンネ(ゲルダ・ニールセン)に恋心を抱いていることを、モーテンとペーターは快く思っていない。そして、ボーオンの長男ミッケル(エーミール・ハス・クリステンセン)には妻インガー(ビアギッテ・フェーダーシュピール)と子供が二人おり、インガーは3人目を妊娠中だ。次男のヨハンネス(ブレーべン・レーアドルフ・リュ)は自らをキリストだと信じているが、周囲の者に彼は、長い間不安定な精神状態にある、正気を失った男と思われていた(“異人”ヨハンネスは人びとが真の信仰を喪失していると嘆くが、本作の原題Ordetは「(本作では)聖書に書かれた神の御言葉(みことば)」を指す)。
そんなある日、インガーが赤ん坊を死産したのち、容体が悪化し帰らぬ人となる。家族が悲しみに暮れるなか、ヨハンネスは失踪するが、インガーの葬儀の日、彼は不意に姿を現わし、祈りを捧げる。その場には、モーテンと和解したペーター、アナスに寄り添うペーターの娘、アンネの姿もあった。インガーの死を悼んで集うことで、両家の対立は解消されたのだ。そして、深い感銘をもたらすこの和解のシーンののちに、最大のクライマックスが訪れる……。