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[2021年 本ベスト5]理解し合わなくてはいけない相手をめぐって

韓国、障害者、トランスジェンダー、地域……

福嶋聡 MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

50年前の韓国軍による戦争犯罪を掘り起こす

 「東西冷戦」のもう一つの大きな「熱戦」化である10余年後の「ベトナム戦争」にも、韓国は深く関わっている。当時の朴正煕大統領は、ベトナム戦争に5万人の軍隊を派遣した。ソ連が支援する「北」、アメリカが支援する「南」という構図は、朝鮮半島とまったく同じだったからだ。ベトナム戦争と未だ休戦中で終わりを迎えていない朝鮮戦争とは、地続きだったのである。実際、1968年1月、ベトナム戦争の真っ只中に、北朝鮮の武装特殊部隊31人が青瓦台を襲撃するという事件が起きている。

 その3週間後の2月12日、大韓民国海兵隊第二旅団(青龍部隊)第一大隊第一中隊による、南ベトナムクアンナム省フォンニ・フォンニャット村の住民虐殺事件が起こる。『ベトナム戦争と韓国、そして1968』(平井一臣ほか訳、人文書院)は、ハンギョレ新聞記者コ・ギョンテが、半世紀前の事件の生存者を粘り強く探し出して取材を重ね、「74人の民間人が南朝鮮の軍人から虐殺された」(フォン二・フォン二ヤット村入り口にあるガジュマルの木の前に設けられた慰霊碑)とされるこの事件の真相を、埋もれた歴史の中から掘り起こした労作である。

コ・ギョンテ『ベトナム戦争と韓国、そして1968』(平井一臣ほか訳、人文書院)拡大コ・ギョンテ『ベトナム戦争と韓国、そして1968』(平井一臣ほか訳、人文書院)
 韓国軍兵士たちは、村に潜むベトコンの発見、殲滅に血眼だったのかもしれない。あるいは「戦友たちの死を目の前にして、理性を失ったまま手当り次第に民間人に向かって発砲することもないわけではない」。しかし、交戦地域においても民間人の虐殺は、ジュネーブ条約違反の戦争犯罪である。韓国軍は虐殺の事実を否定した。が、真実は、いつか顕れる。

 20世紀の最後の年、コ・ギョンテの電話を受けた当事者の小隊長は、「あー、30年以上も過ぎたあの日が、結局は世間に知られるのだな、と戦慄が走った」と語ったという。

 読後、コ・ギョンテのように丹念にかつ誠実に自国の戦争犯罪を掘り起こそうとするジャーナリストが、今の日本にいるだろうか

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筆者

福嶋聡

福嶋聡(ふくしま・あきら) MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店

1959年生まれ。京都大学文学部哲学科卒。1982年、ジュンク堂書店入社。サンパル店(神戸)、京都店、仙台店、池袋本店、難波店店長などを経て、現在、MARUZEN&ジュンク堂書店梅田店に勤務。著書に『希望の書店論』(人文書院)、『劇場としての書店』(新評論)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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