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高校演劇の「表現の自由」侵害を危惧する

福井県で原発に言及した「明日のハナコ」が放送中止

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

作品を「なかったこと」にする強い措置が

 この芝居は下校時間に「演劇をやらない」とともだちを誘うところから始まる。

 道路工事が計画された現場に貴重な鳥が生息していることを告発して会社をやめなければならなくなった会社員、職業軍人の父を終戦後に火事で亡くした祖母の経験、縫製工場に勤め、漁村の男と結婚した祖母のことなどの挿話が演じられ、やがて原発誘致へと収斂されていく芝居で、セリフの端々やちょっとした抑揚、それに動きなどが地域の空気を感じさせるところがたいへん新鮮に感じられた。北陸の湿った空気とその透明感などが、セリフとセリフの間に流れ込んでいるような、そんな感じだった。

 福井県の高校演劇祭(主催・県高校文化連盟〈高文連〉演劇部会)が開かれたのは2021年9月のことで、コロナ禍のために昨年に続き、無観客での開催だった。上演された演目は地元ケーブルテレビが収録し放送する予定であった。

 ところが演劇部顧問会議は「明日のハナコ」の放送中止をケーブルテレビに申し入れた。そればかりか、DVDの制作も禁止、台本は回収という措置をとった。高校演劇祭「明日のハナコ」の出演者のなかには演技賞を受賞した出演者もいるそうだが、顧問会議がとったのは、そもそもこの演劇が演劇祭に参加したこと、さらに言えば作品そのものを「なかったこと」にしてしまう強い措置だ。台本の回収は後に撤回された。とは言え、ここまでの強い措置は表現の自由の権利侵害を超え、思想弾圧という強い言葉さえ浮かぶ。

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筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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