作品を「なかったこと」にする強い措置が
この芝居は下校時間に「演劇をやらない」とともだちを誘うところから始まる。
道路工事が計画された現場に貴重な鳥が生息していることを告発して会社をやめなければならなくなった会社員、職業軍人の父を終戦後に火事で亡くした祖母の経験、縫製工場に勤め、漁村の男と結婚した祖母のことなどの挿話が演じられ、やがて原発誘致へと収斂されていく芝居で、セリフの端々やちょっとした抑揚、それに動きなどが地域の空気を感じさせるところがたいへん新鮮に感じられた。北陸の湿った空気とその透明感などが、セリフとセリフの間に流れ込んでいるような、そんな感じだった。
福井県の高校演劇祭(主催・県高校文化連盟〈高文連〉演劇部会)が開かれたのは2021年9月のことで、コロナ禍のために昨年に続き、無観客での開催だった。上演された演目は地元ケーブルテレビが収録し放送する予定であった。
ところが演劇部顧問会議は「明日のハナコ」の放送中止をケーブルテレビに申し入れた。そればかりか、DVDの制作も禁止、台本は回収という措置をとった。高校演劇祭「明日のハナコ」の出演者のなかには演技賞を受賞した出演者もいるそうだが、顧問会議がとったのは、そもそもこの演劇が演劇祭に参加したこと、さらに言えば作品そのものを「なかったこと」にしてしまう強い措置だ。台本の回収は後に撤回された。とは言え、ここまでの強い措置は表現の自由の権利侵害を超え、思想弾圧という強い言葉さえ浮かぶ。
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