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田中絹代監督の魅力と邦画の再評価をめぐって~P=A・ヴァンサン氏に聞く

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

 戦前、戦中、そして戦後。常に第一線で活躍した田中絹代(1909-1977)は、溝口健二、小津安二郎、成瀬巳喜男ら巨匠に愛された日本を代表する偉大な俳優。さらに6作の長編映画を手がけた「映画監督」であったが、その隠された顔にもようやく照明が当たる時代が来た。

 2021年7月のカンヌ国際映画祭は彼女の監督第2作目『月は上りぬ』をカンヌ・クラシック部門で上映した。続いて10月にはフランス中部リヨンのリュミエール映画祭が修復された全6本を上映。これらの企画はもとを辿れば2020年のスイス・ロカルノ映画祭の発案だが、コロナ禍を受けフランスの映画祭がバトンを引き継いだ。フランスでは、2022年2月16日から全作品が劇場公開される。

リュミエール映画祭のメイン会場アンスティチュ・リュミエール 前。田中監督の回顧上映前に並ぶ列。=撮影・筆者拡大リュミエール映画祭のメイン会場「アンスティチュ・リュミエール」。田中絹代監督の回顧上映前には行列ができた=撮影・筆者

 一方日本だが、あいち国際女性映画祭などによって田中“監督”の功績を讃える努力は以前からあったものの、作品を鑑賞できる機会は稀だった。しかし、2021年秋には鎌倉市川喜多映画記念館が企画展「田中絹代──女優として、監督として」と連動した特別上映を実施。10月末からの東京国際映画祭では修復された4本の監督作を上映した。

 この勢いに乗り、2022年1月1日から7日までの1週間、東京・高田馬場の名画座「早稲田松竹」で「田中絹代監督特集」が開催される。『恋文』(1953)、『月は上りぬ』(1955)、『乳房よ永遠なれ』(1955)、『女ばかりの夜』(1961)、『お吟さま』(1962)の5本を集めた。

『月は上りぬ』©1955 NIKKATSU. Tous droits réservés.拡大『月は上りぬ』 ©1955 NIKKATSU. Tous droits réservés.
© 1955 NIKKATSU. TOUS DROITS RÉSERVÉS.拡大『乳房よ永遠なれ』 © 1955 NIKKATSU. TOUS DROITS RÉSERVÉS.

 恋愛ドラマや歌人の評伝の映画化、社会派ドラマ、時代劇に至るまでジャンルは多岐にわたる。田中は名匠の隣で黄金時代の映画作りを肌で吸収してきたからか、その映像表現は細部までプロ意識が漲り、演出は繊細かつ堂々としたものだ。

 リュミエール映画祭の映画関係者によるシンポジウムでは、田中作品をジャン・ルノワールやマルセル・カルネ、ジョン・フォードといったスケールの大きな巨匠と重ねる声も上がった。同時に、運命の殉教者の地位に甘んじない意志的な女性が主役のドラマが多く、同時代の男性監督が描く女性像とははっきりと一線を画す。

 そこで今回は映画監督で日本映画専門家でもあるフランスのパスカル=アレックス・ヴァンサン氏に田中絹代監督作品の魅力に加え、再評価が遅れがちな日本の古典映画の配給や受容の裏側について意見を伺った(インタビューはリヨンのリュミエール映画祭で2021年10月10日に実施)。

パスカル=アレックス・ヴァンサンさん=撮影・筆者拡大パスカル=アレックス・ヴァンサンさん=撮影・筆者

パスカル=アレックス・ヴァンサン
映画監督。日本映画専門家として母校のパリ第三大学(ソルボンヌ・ヌーベル)で教壇に立つ。90年代初頭からは日本映画専門の配給会社Aliveの社員として古典映画の紹介に務めた。監督作に『美輪明宏ドキュメンタリー  黒蜥蜴を探して』(2010)、2021年にカンヌ国際映画祭のクラシック部門で紹介された『今敏ー夢見る人』(2021)など多数。現在は田中絹代のドキュメンタリー映画を準備中。

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筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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