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田中絹代監督の魅力と邦画の再評価をめぐって~P=A・ヴァンサン氏に聞く

林瑞絵 フリーライター、映画ジャーナリスト

当時の日本映画にない女性の視線

監督作品『恋文』を撮影中の田中絹代=1953年拡大映画監督・田中絹代=1953年

──田中作品の中で特に好きな映画はありますか。

ヴァンサン 一番のお気に入りは『女ばかりの夜』です。信じられぬほどのダイナミズムとエネルギーに満ちています。主役を演じた若い原知佐子の存在感は驚くばかり。彼女は映画の中で香川京子や浪花千栄子といった先輩に囲まれ、女優としても進化を遂げます。田中は女優たちの偉大な指揮者なのです。林光の音楽も忘れ難い。結末は驚きに溢れモダンな仕上がり。田中がいかに進歩的な人物で、女性の側に寄り添っていた監督だったかがわかります。

──再見したくなりました。

ヴァンサン 二番目のお気に入りは有馬稲子や仲代達矢が出演する『お吟さま』です。照明やセット、衣装などが圧倒的に素晴らしい。作品の隅々にまで行き渡る芸術性に目を見張りますが、監督として最後のこの作品には成熟さが如実に感じられ、彼女が偉大な映画監督であることの証明にもなっています。

『お吟さま』©1962 / 2021 SHOCHIKU CO., LTD. TOUS DROITS RÉSERVÉS.拡大『お吟さま』 ©1962/2021 SHOCHIKU CO., LTD. TOUS DROITS RÉSERVÉS.

──あなたにとって田中監督作品の魅力はなんでしょうか。

ヴァンサン やはり映画に流れる女性からの視線の強さでしょうか。当時の男性監督が手がけた他の日本映画では見られない意志的な女性たちのドラマは先駆的なものです。女性性の中で息づく鮮やかなメロドラマは、日本映画を愛する人にとって大きな発見であり、今後は邦画の黄金時代における不可欠な秀作とされることでしょう。


筆者

林瑞絵

林瑞絵(はやし・みずえ) フリーライター、映画ジャーナリスト

フリーライター、映画ジャーナリスト。1972年、札幌市生まれ。大学卒業後、映画宣伝業を経て渡仏。現在はパリに在住し、映画、子育て、旅行、フランスの文化・社会一般について執筆する。著書に『フランス映画どこへ行く――ヌーヴェル・ヴァーグから遠く離れて』(花伝社/「キネマ旬報映画本大賞2011」で第7位)、『パリの子育て・親育て』(花伝社)がある。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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