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東京のバスガールは明るく走ってはいなかった!?後編

【43】初代コロムビア・ローズ 東京のバスガール

前田和男 翻訳家・ノンフィクション作家

終業後の入浴は身体検査?

 しかし、私のなかで「東京のバスガール」のイメージを反転させたものは、それだけではない。決定的なダメ押しをしたものがある。それは、「バスガールたちの終業後の入浴」である。

 勤務が終わると入浴するのが彼女たちの「日課」だとはじめて聞かされたときは、てっきりこう思った。さすがは戦闘的な組合で知られる東交だ、バスガールたちが一日の疲れを癒すための「福利厚生の権利」を勝ち取ったのかと。

 というのも、東京都清掃局の組合活動家の友人から、業務完了後に汚れた身体を洗うための入浴とその後の団らんを、「福利厚生の権利」として当局に認めさせていると聞いていたからだった。(国鉄の一部の機関区では、労働者たちには就業中にも「入浴」が認められていて、これは後に「国労バッシング」のネタにもつかわれた)

 それを口にしたら、「学生さんは労働者と連帯するとかいってるけれど頭でっかちで現実を知らない」と笑われた。実は「終業後の入浴」は切符の売り上げを隠していないかを確認するための「身体検査」を兼ねていたのである。

 この“不都合な真実”を知らされとき、私は、「許せない」という道義的な怒りと共に、なにやら艶めかしい情景が脳裏にうかび、そんな自分に恥じ入ったことを、今でもはっきりと覚えている。

「密行」が来ているから風呂にはいるな!

 もう半世紀以上も前の話なので記憶に誤りがあってはいけないと思い、元バスガールを尋ねあてようとしたが、半世紀を超える年月がそれを阻んで叶わなかった。そこで、ネットを渉猟しているうちに、元都バスの車掌だった母親の体験記を聞き書きしたブログに遭遇した。

 母親は昭和33年に入局したというから、私が出会った“闘うバスガールのお姉さん”たちとほぼ同世代と思われる。そのブログの中の以下のくだりが、私を当時に引き戻してくれた。

 「乗務を終え、お風呂に入ろうとしたところ『密行が来てるから今はいらない方がいい』と、耳打ちされたこともあったそう。横領を防ぐため、時々『密行』といわれる人がバスに乗り込んできてチェックしていたそう。バスの中以外でも入浴時にお金を身に着けていたらアウト! 常に監視されているような状況も母にとっては苦痛で、『黒歴史』につながったのかもしれません」都バスに車掌さんがいた風景3(参照

 「密行」とはなんとも時代がかった言葉だが、たしかに私には聞き覚えがあった。ウラをとろうにも、直接当人たちを尋ねあてることができないままなので、昭和30年代、都電の運転手として青山営業所で組合支部の青年部長をつとめていた運動の大先輩のMに、コロナ禍の見舞いをかねてたしかめてみた。

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筆者

前田和男

前田和男(まえだ・かずお) 翻訳家・ノンフィクション作家

1947年生まれ。東京大学農学部卒。翻訳家・ノンフィクション作家。著作に『選挙参謀』(太田出版)『民主党政権への伏流』(ポット出版)『男はなぜ化粧をしたがるのか』(集英社新書)『足元の革命』(新潮新書)、訳書にI・ベルイマン『ある結婚の風景』(ヘラルド出版)T・イーグルトン『悪とはなにか』(ビジネス社)など多数。路上観察学会事務局をつとめる。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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