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コメント欄で誹謗中傷を書き込む人と相性抜群、ネットメディアの構造的矛盾

勝部元気 コラムニスト・社会起業家

 インターネットメディアのコメント欄に集まる誹謗中傷が、近年非常に深刻な問題になっているのは言うまでもありません。誹謗中傷に限らず、差別、デマ、冷笑、誤読による非難、悪意に満ちた感情の発露、議論の前提や事実関係を無視した反知性主義的論破、勝手な決めつけ等、様々な「負のコメント」が記事に大量に付く時代になってしまったのです。

 コメント欄に誹謗中傷等を書き込む人は、かつては「荒らし」という言葉で呼ばれていました。ですが、荒れるのが今や常態化しているため、昨今その言葉はほとんど使われなくなったのだろうと感じます。今では「コメント欄が地獄」のようなより強い言葉で表現する人が少なくありません。

 2021年5月にはYahoo!ニュースに誹謗中傷のコメントを書いた男性が、名誉毀損の罪で略式起訴されたのにもかかわらず、抑止力は働いていません。今日も様々なメディアに無数の誹謗中傷等のコメントが書かれて、“地獄化”していることでしょう。

mako999shutterstockmako999/Shutterstock.com

ヤフコメ問題で上層部に苦言を呈した上間陽子氏

 2021年11月10日に、沖縄の社会問題を綴った上間陽子氏の『海をあげる』(筑摩書房)が、「Yahoo!ニュース|本屋大賞 2021年ノンフィクション本大賞」を受賞しました。その際、上間氏は受賞スピーチで以下のように語っていました。

この賞が発表されて、明日からYahoo!のコメント欄は荒れるでしょう。……日本中を覆う、匿名性を担保にした悪意の言葉が、どれだけ人を削り、奈落の底に突き落とすのか、ここにいるYahoo!ニュースの関係者、おそらく私がこれまで会うこともなかった偉い方々に考えていただけたら、と思います。私たちが見たかったのは本当にこういう社会なのでしょうか?

教育学者・上間陽子さん教育学者の上間陽子さん

 コメント欄問題はインターネットメディアが抱える最重要課題の一つであり、上間氏が指摘したように、この問題にどう対応するか、メディアとしての責任が強く問われています。もちろん、コメント欄を設けているここ「論座」も例外ではありません。

コメント欄は本来コンテンツの質を高めるものだった

/Shutterstock.comREDPIXEL.PL/Shutterstock.com

 コメント欄の誹謗中傷等を予防するためには、当然ながらこの欄自体を閉じてしまうのが最も簡単で、効果的な方法です。実際、Yahoo!ニュースでは、誹謗中傷等が非常に多かった眞子さんと小室圭さんの結婚に関する記事では、コメント欄を非表示にするという措置をとりました。

 その一方で、コメント欄を設けるメリットも存在します。たとえば、記事への補足説明、筆者が示した仮説を裏付ける実例の紹介、異なる視点による考察、稚拙な論理展開に対する指摘等、読者による有益なコメントの提供はコンテンツとしての魅力を高めます。それによりPV数に良い影響を与える面もあるでしょう。

 また、筆者にもメリットがあります。たとえば私自身も、コメント欄の指摘を受けて、「確かにその論点も書いておけばより洗練されたものになったのに!」と気づかされたり、「このような的確な反論に対応できるよう、もっとしっかり論証すべきだった……」と詰めの甘さを後悔したりしたことが、これまでいくつかありました。

 つまり、筆者も、そのような有意義なコメントをたくさんもらうことができれば、書き手としてレベルアップすることができるのです。

荒らされるとコメント欄の存在価値は無くなる

 ところが、記事がSNSや転載先のキュレーションメディア等でヒットし、日頃から誹謗中傷等を繰り返している人々の目に留まるようになると、そうした類のコメントの比率が次第に高まっていきます。

 そうすると、埋没してしまった有益なコメントを探し出す作業の「コストパフォーマンス」が悪くなり、コンテンツの質を高めるというコメント欄のメリットが完全に消え失せてしまいます。

 確かに、「論座」のコメント欄などは、Yahoo!ニュースよりも誹謗中傷等の割合が低い印象があります。ですが、ネット上で誹謗中傷等を行う人々は膨大な数に及ぶため、記事が大きく拡散されるとこの手の人たちのコメントが殺到し、Yahoo!ニュースなどとほとんど変わらない状態になります。

 たとえば、私が前回書いた記事『前澤友作さんの宇宙観光は「飛び恥」の極み』には、「金持ちへの妬みだ!」といった、私の「心情」を決めつける投稿が多々書き込まれました。これはまさにそのパターンだったと言えるでしょう。

誹謗中傷等をする人としない人の非対称な消費行動

Yahoo!ニュースのコメント欄。投稿ごとに「そう思う」「そう思わない」の数が表示されるYahoo!ニュースのコメント欄。投稿ごとに「そう思う」「そう思わない」の数が表示される

 コメント欄が荒れるという流れにインターネットメディアが個々で対抗するのは、非常に難しいと思います。というのも、これは構造上の問題だからです。

 誹謗中傷等を繰り返している人々のほうが、積極的にコメントを書いたり、共感した記事に熱心に「Good」をつけたり、拡散に協力したり、気に食わない意見の記事に「Bad」をつけたり、誹謗中傷等を先導する犬笛を吹いたりと、様々なアクションを起こす傾向にあります。こうした行動を問題視する私のこの記事も、アクセス数が増えれば増えるほど、コメント欄はおそらく荒れるでしょう。

 一方で、概ね「読むというインプットを目的」とする“真っ当な”読者は、そうしたアクションを起こすことは、先の人たちほど多くありません。ましてや、誹謗中傷等をする人々が日常的に読んでいるメディア(まとめサイト等)にわざわざ足を運び、そのコメント欄に書き込むことはほとんどしないでしょう。つまり、両者の消費行動に大きな非対称性が存在しているのです。

“行動するアンチ”とネットメディアビジネスは相性がいい

 SNS時代のメディアのビジネスモデルは、「話題になる→PVが増える→広告収入が入る」「シェアされる→読者層が広がる」といった特徴等から、インプットが主目的の人々よりも、アクションを起こす人々を顧客に据えるほうが儲かりやすいビジネスモデルになっています。そのため、誹謗中傷等の“アクション”をする人たちとは、どうしても相性がよくなるわけです。

 Yahoo!ニュースは、「コメント欄の誹謗中傷等を放置している」という批判を頻繁に浴びていますが、メディアを運営する企業は一般的に、放置したほうが目先の利益にかなう面もあるため、そうしたカルチャーが雪だるま式に広がってしったとも言えるでしょう。

 このような構造上の矛盾があるため、個別のメディアの対策だけでは限界があります。「木村花さんの死にも懲りない、批判と誹謗中傷の違いが分からない人たち」という記事でも触れましたが、「誹謗中傷」等と「批判」の線引きを明確化した上で、法律等を用いて国全体で対応しなければならないでしょう。

 さらには、主な流入元であるSNSプラットフォームは、世界規模で運営されているものも多い以上、この現象により強く抗うためには、気候変動、デジタル課税、「底辺への競争」の問題等と同様に、世界全体でも対策を考えなければならないと思います。(つづく)