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吉村萬壱『哲学の蠅』を読む──「文学の正統」に連なる脱ぎっぷりの良さ

大槻慎二 編集者、田畑書店社主

 なんとも潔い装丁である。独特な模様の凹凸がかった白い紙。帯の上の平面には何もない。帯と、帯をとったカバーに、書名と著者名がスミ箔で押され、背に廻るエッジのところに、同じくスミ箔で押された蠅の絵。上手い。上手い上に、味がある。

吉村萬壱拡大吉村萬壱『哲学の蠅』(創元社)
 目次裏のクレジットに「蠅画・見返し写真 吉村萬壱」とあり、一瞬驚くが、この『哲学の蠅』(創元社)の著者には漫画家としての著作もあるのだと思い返し、帯の小口(本の開きのある方)側のエッジに回り込んでいる絵を開いて見ると、背側と別の蠅が前肢をすりすりしている。

 われわれがよく知っているけれども、改めてこう描かれるとハッとする蠅の動作と滑稽な表情に、思わず笑みがこぼれる。「本はこの世に『実在』していて欲しい」(p72)と「ブツ」としての本をこよなく愛する著者ならではの、またその意を汲んだ装丁家と編集者の、会心の佇まいだ。

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筆者

大槻慎二

大槻慎二(おおつき・しんじ) 編集者、田畑書店社主

1961年、長野県生まれ。名古屋大学文学部仏文科卒。福武書店(現ベネッセコーポレーション)で文芸雑誌「海燕」や文芸書の編集に携わった後、朝日新聞社に入社。出版局(のち朝日新聞出版)にて、「一冊の本」、「小説トリッパー」、朝日文庫の編集長を務める。2011年に退社し、現在、田畑書店社主。大阪芸術大学、奈良大学で、出版・編集と創作の講座を持つ。フリーで書籍の企画・編集も手がける。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです