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松尾スズキ『命、ギガ長スW(ダブル)』取材会レポート

宮藤官九郎×安藤玉恵、三宅弘城×ともさかりえが演劇の原点に返る

米満ゆうこ フリーライター

「大人計画」を主宰する松尾スズキが、演劇を始めた原点に立ち返ろうと自ら企画・プロデュースする「東京成人演劇部」。2019年の旗揚げ公演『命、ギガ長ス』では“8050問題”をテーマに、松尾は脚本、演出のほか、安藤玉恵と主演し二人芝居で見せた。

 今回はタイトルを『命、ギガ長スW(ダブル)』と変え、宮藤官九郎と安藤玉恵、三宅弘城とともさかりえの組み合わせで再演される。80代で認知症気味の母親とアルコール依存症の50代の息子が織りなす、毒素たっぷりの松尾ワールドが、このキャストでどうなるのか。今回は作・演出に徹する松尾が大阪市内で会見し、その思いを話した。

演劇は楽しくて苦しいものだと再認識

松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉拡大松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉

記者:初演を振り返るといかがでしたか。

松尾:自分が出演した時はプレッシャーが積み重なり、うまくいけば喜びなんですけど、何か魂を削っているような気がして。でも、昔はこんなプレッシャーと闘わずに、演劇を心ゆくまで楽しんでたなぁと若いころを思い出しました。と同時に、二人だと舞台をもたせなきゃいけないというプレッシャーもあり、演劇は楽しくて苦しいものだと再認識した時間でしたね。

記者:再演を決めたのは、初演で手ごたえがあったからですか。

松尾:そうですね。自分でもよく書けたなと(笑)。大人計画が今回は制作に入るんですけど、大きなホールではなく、小さいところで気軽にやれる演劇をやりたいと。どこにでも持っていける演劇という、コンテンツとしてはベストではないかと思います。

記者:今回はダブルキャストでの再演です。

松尾:安藤玉恵さんは、この芝居の根幹を知っている方なんで引き続き出てもらいたい。安藤さんと宮藤官九郎君は仲が良くて。そして宮藤君は俳優として、全然このところ渡り合っていないなという気がしているんです。俳優、宮藤官九郎はなかなか面白い人材なので、このコンビがいいと思いました。

 三宅弘城君はうちの事務所の所属俳優なんですが、演技をすることに対する芯が深い俳優で、底力もある。二人芝居はなかなか体力的にも大変です。三宅君はともさかさんとすごく縁があって、一緒に仕事する機会が多い。もともと僕はともさかさんのファンなんですが、プレッシャーがかかる芝居なんで、彼女が信頼している三宅君がいたほうがいい。なのでこのコンビです。ともさかさんは〝芸能人ど真ん中の人〟なんですけど、最近は舞台に軸を置いている。そういう方と僕はお付き合いしていきたいので、声をかけた次第です。

松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉拡大松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉

記者:作品の見どころは?

松尾:二人の俳優が二転三転役を変えて、まったく違う役を演じながら最後に収斂していく。認知症の母とアルコール依存症のニートの息子、大学の教授とゼミの学生、180度違うキャラクターを演じながら、エンディングではそれぞれがはまってくるみたいなところは、やる方はリスキーですが、観ている方はスリリングだと思います。

記者:今回、作・演出に徹した理由は?

松尾:初演で自分が演技をして、演技することで演出の半分はやったみたいなところがあります。そこで作り上げてしまったので、再度、自分がやることはあまりない。宮藤君と安藤さん、三宅君とともさかさんの二組がやるから、俯瞰で見ることが必要。僕がやるとそれができなくなる。俯瞰で見る面白さに集中したいなというのがあります。

記者:演出で変える部分はありますか。

松尾:積極的に変えようとは思ってないです。二人しかいなくて、小道具もないのでそうそう変えられないというか。ただ、4人とも個性の強い俳優だから、稽古が進む中で、色んな場面が膨らんだり、短くなったりするという変え方はあると思います。

二人芝居でパズルを埋める闘志がわいた

松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉拡大松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉

記者:先ほど、「演劇は楽しく苦しいものだ」とおっしゃっていましたが、作品を書いた時は生みの苦しみはありましたか。

松尾:出演者がいるだけという枷を最初に作っているんで、それをどうやって膨らませていくか。膨らませながらも各々のメークを変える時間とか着替えの時間を計算して書かなきゃいけない。その枷があるからこそ、逆に燃えるというか、うまくパズルを埋めてやるという闘志がわきましたね。でっかい絵巻物みたいな芝居が続いていたので、シンプルな話はむしろやりがいがありました。

 二人芝居はほとんど書いたことがなくて、手つかずの部分があるから、そこは入っていきやすかった。初めてのことをやる時は、たいてい、僕はうまくいくんですけど(笑)、そして、うまくいったなと。

記者:「8050問題」を取り上げようという根幹は何でしょうか。

松尾:実際これを書いている時に、僕が50代で、僕の母親が80代でした。僕が母親の面倒を見ていたんですけど、もし、これが面倒見られない状態だったら、自分は不器用なんで、作品で描かれている問題に突入してしまうかもしれないと。もしも自分がそうだったら、というのを想定して書いてみました。8050問題だけを強く意識したわけではないんです。

 僕はまぁ、だいたいよく書けるんですけど(一同笑)、こういうシンプルな話はあんまり書かないんで、シンプルにするともっと書きやすいんだということが分かりました。今後の自分の作家活動にも影響する芯になるものだと思いましたね。

記者:東京はザ・スズナリ、大阪は近鉄アート館と、小さな劇場で上演されます。

松尾:俳優以外に見るところがないし、舞台セットや小道具はほとんどないので、俳優を客の前に縛り付けることになるんですが、パントマイムみたいに自由に演じられる。ある意味、自由と不安の極致なんです。体の向きを変えただけで、場所やシーンを変えることができて、それが利点でもある。近いところから表情一つで変わる世界を見られることが、小劇場の醍醐味です。

商業だけにのみ込まれたくない

松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉拡大松尾スズキ=岸隆子 撮影〈スタイリング:安野ともこ/衣装協力 GIORGIO ARMANI(ジョルジオ アルマーニ)、ジョルジオ アルマーニ ジャパン株式会社/03-6274-7070〉

記者:初演で演劇をやる初心に返ったそうですが、再演でもそういう気持ちは高まったのでしょうか。

松尾:もう少し気軽な気持ちで演劇にふれあえるコンテンツは大事にしたほうがいいですし、ご時世もあります。今、演劇界では主役級の人たちが育っていて、僕が味わった演劇の原点の思いを、若い人たちにも知ってほしいなと。

 後輩の芝居をたまに観るんですけど、小さな劇場でセットなしで、ふわっと始められる、簡素な空間。お能もそうですが、何もないところで何でもなく始まるのは演劇の原点なんじゃないかと。大きな作品を作ってばかりだと、そういうことを忘れていたんですよね。若いころは、セットもなく体ひとつで見せることばかりをやっていたので、この年になるとどうなるのか、冒険でもあるんです。その原点に一回は立ち返らないと、商業に侵されてしまうなという危機感もあります。商業だけではなかったはずですから。のみ込まれたくないというのはすごくありましたね。

記者:初演の反響で印象に残っていることはありますか。

松尾:東京以外の色んな地方都市を回って、僕らはドリフなのかと思うほど受けているところもあれば、じっくり観ている場所もあり、色んな反応がありました。台湾公演もあり、台湾のお客さんがめっちゃ喜んでいるのが良かったですね。海外でも分かり合えるというか、ありえる問題で、色んな発見があって面白かったです。

記者:最後にメッセージをお願いします。

松尾:スペクタルでゴージャスな演出もしていますが、そうじゃない、地味なこともできるんだぞという、そこを見てほしいですね。個人的には宮藤君とずいぶん離れて仕事してきたんで、これだけがっつり宮藤君を役者として演出できるのはすごく幸せな時間じゃないかと。若いころ、ずっと一緒にいたのでね。そのころの思いも込めて演出したいと思います。安藤さんももちろん、三宅君とともさかさんの二組も楽しみですし、結構、見ものだと思います。楽しみにしていてください。

◆公演情報◆
東京成人演劇部vol.2『命、ギガ長スWダブル』
東京:2022年3月4日(金)~4月3日(日) 東京 ザ・スズナリ
大阪:2022年4月7日(木)~4月11日(月) 大阪 近鉄アート館
北九州:2022年4月15日(金)~4月17日(日) 北九州 北九州芸術劇場 中劇場
松本:2022年4月23日(土)~4月24日(日) 松本 まつもと市民芸術館 実験劇場


[スタッフ]
作・演出;松尾スズキ
[出演]
ギガ組…宮藤官九郎×安藤玉恵
長ス組…三宅弘城×ともさかりえ

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筆者

米満ゆうこ

米満ゆうこ(よねみつ・ゆうこ) フリーライター

 ブロードウェイでミュージカルを見たのをきっかけに演劇に開眼。国内外の舞台を中心に、音楽、映画などの記事を執筆している。ブロードウェイの観劇歴は25年以上にわたり、〝心の師〟であるアメリカの劇作家トニー・クシュナーや、演出家マイケル・メイヤー、スーザン・ストローマンらを追っかけて現地でも取材をしている。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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