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舞台『あの子より、私。』公演レポート

自分自身とも照らし合わせて考えてみたくなる

中本千晶 演劇ジャーナリスト


 1月15日、よみうり大手町ホールにて開幕した『あの子より、私。』は、とある郊外にある別荘見学会に集まった「人生の成功者たち」の物語である。見栄と見栄とが激しくぶつかり合って火花が散り、ウソとまことが交錯する。

 作・演出を手掛けるのは演劇ユニット「艶∞ポリス」を主宰する岸本鮎佳。その繊細な脚本は、一言一句が「わかる、わかる」と頷きの連続だ。演じる俳優たちもその世界観を丁寧に体現してみせ、観客を物語世界に引き込んでいく。

舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社拡大舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社

 カリスマ美容家の夕美(黒谷友香)は、仕事と家庭、両方の幸せを手にした女性だ。夫もカリスマミュージシャンで、娘と息子がいる。良くも悪くも自分に正直で負けず嫌い、常に完璧を求める生き様がにじみ出る。

 いっぽう楓(遊井亮子)は元・実力派女優だが今は小説家に転じて活躍している。夫とは離婚したばかりで、一人娘がいる。人当たりが柔らかく周囲に気遣いするタイプだが、どこか影がある。

 対照的な性格ながらも高校時代は仲の良かった二人。だが、ある事件を契機に会わなくなった。その二人が、郊外の別荘地で互いの家族とともに再会するところから、物語は始まる。

過去と現在、それぞれの夕美と楓が対話する

舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社拡大舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社

 夕美の娘の愛夢(あいむ・小林万里子)と楓の娘の英美香(村上穂乃佳)、二人の娘たちが、まるでそれぞれの母親の分身のようだ。

 この二人が、高校時代の夕美と楓も演じる。回想シーンを織り交ぜつつ物語が進み、現在の夕美と楓、若き日の夕美と楓の4人が対話することで、次第に心の距離が近づき、わかり合っていくさまを見せる趣向が面白い。

 夕美の息子の彗(けい・基俊介)は、両親ともに有名人という特殊な家族のことを一歩引いて冷めた目で見ている。複雑なものを抱えた息子である。基がもう一役、高校時代の夕美の恋人である、キザ男の誠司も演じてみせるのも見どころだ。

舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社拡大舞台『あの子より、私。』公演から、Ⓒ曳野若菜/エイベックス・エンタテインメント株式会社

 夕美の夫で、今もミュージシャンとして人気を誇る護(まもる・古屋隆太)と、不動産屋の営業担当、明菜(異儀田夏葉)。かたや夢を追い続け、かたや現実主義者と価値観は真逆だが、自分に嘘をつかずのびのび生きているところは共通していて、緊迫するストーリーの中でホッと息をつかせてくれる。じつはこの二人はそれぞれ、夕美と楓の一番の理解者でもある。

 そして、別荘見学会のもう一組の見学者が、カメラマンのルミ(松岡依都美)と料理雑誌編集長の初美(しゅはまはるみ)である。喧嘩ばかりしているが、自分の想いを正直にぶつけ合うことができる素敵なカップルだ。その関係性が、夕美と楓にも影響を与えていく。物語の中のスパイスのような存在である。

◆公演情報◆
舞台『あの子より、私。』
東京:2022年1月15日(土)~1月27日(木)  よみうり大手町ホール
大阪:2022年2月5日(土)・2月6日(日) サンケイホールブリーゼ
公式ホームページ
公式Twitter

[スタッフ]
作・演出:岸本鮎佳
[出演]
黒谷友香、基俊介(IMPACTors/ジャニーズJr.)、遊井亮子、松岡依都美、しゅはまはるみ、古屋隆太、異儀田夏葉、村上穂乃佳、小林万里子
ピアニスト:高木里代子

★黒谷友香さんのインタビューはこちら

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筆者

中本千晶

中本千晶(なかもと・ちあき) 演劇ジャーナリスト

山口県出身。東京大学法学部卒業後、株式会社リクルート勤務を経て独立。ミュージカル・2.5次元から古典芸能まで広く目を向け、舞台芸術の「今」をウォッチ。とくに宝塚歌劇に深い関心を寄せ、独自の視点で分析し続けている。主著に『タカラヅカの解剖図館』(エクスナレッジ )、『なぜ宝塚歌劇の男役はカッコイイのか』『宝塚歌劇に誘(いざな)う7つの扉』(東京堂出版)、『鉄道会社がつくった「タカラヅカ」という奇跡』(ポプラ新書)など。早稲田大学非常勤講師。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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