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電動キックボードの歩道走行を認めてはならない──規制緩和は慎重に

杉田聡 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

 1月17日、通常国会が開会した。今後、多様な法案をめぐって論戦が戦わされるはずだが、下手をするとまともな議論にならないまま、すんなり通過してしまうかもしれない法案のことが気がかりである。それは、「電動キックボード」(以下KBと略記)に関わる道路交通法の改定案である。

 報道によれば、時速20km以下で走るKBには免許を不要とし、かつ自転車レーンをも走れるようにするという。そればかりか時速6km以下なら、歩道をさえ走ることを許すというのである(朝日新聞2021年12月24日付)。

東京駅前の車道を走る電動キックボード。原付きバイクとして扱われ、運転には原付き免許が必要だ=27日、東京都千代田区丸の内拡大法改正されれば時速6km以下の電動キックボードは歩道を走行できるようになる=東京都千代田区丸の内

現行法と法改定案

 現行法では、時速30km(出力0.6kw)以上が出るKBは、自動二輪なみの免許が求められ、ヘルメット装着が義務づけられる。加えてナンバープレート、バックミラー等を装備しなければならない。時速30km(出力0.6kw)以下の場合でも、原動機付自転車と同等の免許が必要である(警視庁「電動キックボードについて」)。

 けれども、これでも少なくない事故が起きているのが現状である。2021年12月、警視庁は頻発するKB事故を踏まえて、取り締まりの強化に乗り出してさえいる(TBSニュース2021年12月2日)。

 にもかかわらず他方で、政府は規制緩和の動きも見せてきた。特定地域での実証実験において、KBに自転車レーンでの走行を許し、さらに最高速度が15km以下の場合は、免許取得・ヘルメット装着の義務を免除さえしていた(『多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会 報告書』2021年12月、7-8頁)。

道交法改定案がめざす規制緩和

 そして2021年12月、実証実験で試みられたことが、道交法改定に向けた原案にもりこまれたのである。実証実験は、模範的な行為者による優等生的なモデルを作ることにしか役立たないのに(しかも今回の実証実験の担い手はKBを普及させたい側である)、その結果を現実の法規範とするのはいささか問題ではないか。

 近年、急速にKBの利用者が増えているという。もちろん普及を図りたい業界あってのことだが、今回の警察庁案はこうした現状におもねりすぎており、むしろ問題を大きくしかねないことを私はうれえる。

 実証実験においてさえ時速15kmを分水嶺としていた規制を、全国的に時速20kmまで緩め、それ以下では免許を不要とし、かつ「自転車レーン」──歩道上の自転車走行が許された部分をも含めて──を走れることにする(朝日記事2021年12月24日付)というのは、尋常ではない。

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筆者

杉田聡

杉田聡(すぎた・さとし) 帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)

1953年生まれ。帯広畜産大学名誉教授(哲学・思想史)。著書に、『福沢諭吉と帝国主義イデオロギー』(花伝社)、『逃げられない性犯罪被害者——無謀な最高裁判決』(編著、青弓社)、『レイプの政治学——レイプ神話と「性=人格原則」』(明石書店)、『AV神話——アダルトビデオをまねてはいけない』(大月書店)、『男権主義的セクシュアリティ——ポルノ・買売春擁護論批判』(青木書店)、『天は人の下に人を造る——「福沢諭吉神話」を超えて』(インパクト出版会)、『カント哲学と現代——疎外・啓蒙・正義・環境・ジェンダー』(行路社)、『「3・11」後の技術と人間——技術的理性への問い』(世界思想社)、『「買い物難民」をなくせ!——消える商店街、孤立する高齢者』(中公新書ラクレ)、など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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