2022年01月21日
1月17日、通常国会が開会した。今後、多様な法案をめぐって論戦が戦わされるはずだが、下手をするとまともな議論にならないまま、すんなり通過してしまうかもしれない法案のことが気がかりである。それは、「電動キックボード」(以下KBと略記)に関わる道路交通法の改定案である。
報道によれば、時速20km以下で走るKBには免許を不要とし、かつ自転車レーンをも走れるようにするという。そればかりか時速6km以下なら、歩道をさえ走ることを許すというのである(朝日新聞2021年12月24日付)。
現行法では、時速30km(出力0.6kw)以上が出るKBは、自動二輪なみの免許が求められ、ヘルメット装着が義務づけられる。加えてナンバープレート、バックミラー等を装備しなければならない。時速30km(出力0.6kw)以下の場合でも、原動機付自転車と同等の免許が必要である(警視庁「電動キックボードについて」)。
けれども、これでも少なくない事故が起きているのが現状である。2021年12月、警視庁は頻発するKB事故を踏まえて、取り締まりの強化に乗り出してさえいる(TBSニュース2021年12月2日)。
にもかかわらず他方で、政府は規制緩和の動きも見せてきた。特定地域での実証実験において、KBに自転車レーンでの走行を許し、さらに最高速度が15km以下の場合は、免許取得・ヘルメット装着の義務を免除さえしていた(『多様な交通主体の交通ルール等の在り方に関する有識者検討会 報告書』2021年12月、7-8頁)。
そして2021年12月、実証実験で試みられたことが、道交法改定に向けた原案にもりこまれたのである。実証実験は、模範的な行為者による優等生的なモデルを作ることにしか役立たないのに(しかも今回の実証実験の担い手はKBを普及させたい側である)、その結果を現実の法規範とするのはいささか問題ではないか。
近年、急速にKBの利用者が増えているという。もちろん普及を図りたい業界あってのことだが、今回の警察庁案はこうした現状におもねりすぎており、むしろ問題を大きくしかねないことを私はうれえる。
実証実験においてさえ時速15kmを分水嶺としていた規制を、全国的に時速20kmまで緩め、それ以下では免許を不要とし、かつ「自転車レーン」──歩道上の自転車走行が許された部分をも含めて──を走れることにする(朝日記事2021年12月24日付)というのは、尋常ではない。
時速20kmのKBが出しうる運動エネルギーは、一般の歩行者が出しうるそれと比べて、32.5倍にもなる。相手が幼児なら、それは実に2600倍である(*)。
(*)運動エネルギーは速度の2乗と重量の積に比例する。大人の男女の平均的な体重を考慮して、歩行者およびKB利用者の体重は50kg、歩行者の歩行速度は4kmとし、KBは自重15kgと想定した。したがって同エネルギーの比は、4・4・50:20・20・65= 1:32.5である。幼児の場合は、体重10kg、時速1kmと想定すると、その比は、1・1・10:20・20・65=1:2600である。
また今回の改定案では、KBの時速が6km以下の場合には、歩道(自転車通行可となっていない歩道)や路側帯の通行を認めるという。だが時速6kmとした場合でさえ──大人の歩行者に対してKBが及ぼす運動エネルギーは3倍近くですむとしても(4・4・50:6・6・65=1:2.925)──、幼児に対してならそれは230倍以上に達するのである(1・1・10:6・6・65 =1:234)。
いや、大人の場合でさえ、相手が高齢者なら衝突が与えるダメージは大きいだろう。私の母(当時70歳代前半)は、居住地の繁華街を歩いている時、ほとんど歩行者なみの速度で接近してきた自転車に当てられて転び膝を打ったが、
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