大原薫(おおはら・かおる) 演劇ライター
演劇ライターとして雑誌やWEB、公演パンフレットなどで執筆する。心を震わせる作品との出会いを多くの方と共有できることが、何よりの喜び。ブロードウェー・ミュージカルに惹かれて毎年ニューヨークを訪れ、現地の熱気を日本に伝えている。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
生命の境をさまよう男と周囲の人たちで紡がれる人間ドラマ
――脚本を拝読して、もし自分が直人のように意識はあっても目しか動かせない状態になったらどうするだろうか、どんなことを思うだろうかと考えました。
考えますよね。直人のような状態になったとして、例えば自分に子供がいたら、あるいは、一人暮らしだったら、親の世話になっていたら……と周囲の人との関係性でジャッジが変わってきそうな気がして。僕は以前から障害がある方との作品作りを行い、最近は東京2020パラリンピック開会式の演出を務めた中でいろいろな障害を持っている方とお付き合いをさせていただいてきましたが、彼らが言うには「今のままだと選択肢が少なすぎる」と。「家にこもっていたい」「外に出たい」「表現したい」など選択肢がある社会を作りたいという方がたくさんいらっしゃって、僕も彼らの活動には大賛成なんです。血液がん患者の写真家、幡野広志さんは「生きるのも死ぬのも権利だ」とおっしゃっていました。僕は今、健常者かもいしれないけれど、自分の状態なんてあっという間に変わるものだというのはよくわかっていて。自分が障害を持ったときには選択肢があった方がいいし、今障害がないとしても、選択肢がある社会の方が過ごしやすいと思うんです。
――ウォーリーさんがディレクターを務めた東京2020パラリンピックの開会式を拝見しました。様々な人がそれぞれに輝いているのが感じられて、多様性がとても素晴らしい開会式でした。
ありがとうございます。それ(多様性)が最大のテーマだったと思うので。
――あれだけの大規模のプロジェクトで大人数を動かすのは大変だったのでは?
いや、動かそうと思って動かしたら大変ですけど、別に僕が動かそうという気はまったくなかったので。みんなでアイデアを出し合いながら作っていったので気負いもそんなになかったし、プレッシャーもなかったです。
――パラリンピックの開会式でもそうですが、ウォーリーさんが作られる作品は身体性や音楽性が豊かなものが多いようい感じますが、ご自身が表現したいものは?
そうですね、「表現したいものは何ですか」と言われたら特に「これ」というのはなくて。身体性や音楽性があるものが好きだし、正直得意だと思ってはいますが、多分それだけをやったら飽きるだろうなとも思っています。僕が思うのは、何でも演劇になるということ。たとえば「このコップを演劇にしてください」と言われたら、僕は演劇にすると思う。いろんな発想や遊び方で、集団で面白おかしくやるのが好きなんですね。その後に表現がついてきたらいいけれど、純粋な子供の遊びで終わってもいいんじゃないかと思っているところはあります。
◆公演情報◆
舞台『僕はまだ死んでない』
2022年2月17日(木)~28日(月) 銀座・博品館劇場
公式ホームページ
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[スタッフ]
原案・演出:ウォーリー木下
脚本:広田淳一
[出演]
矢田悠祐、上口耕平、中村静香/松澤一之・彩吹真央
〈ウォーリー木下プロフィル〉
神戸大学在学中に劇団☆世界一団を結成。現在はsunday(劇団☆世界一団の改称)の代表で、すべての作品の作・演出を担当している。役者の身体性に音楽と映像とを融合させた演出が特徴。ノンバーバルパフォーマンス集団「THE ORIGINAL TEMPO」のプロデュースを行い、エジンバラ演劇祭にて五つ星を獲得するなど、海外からの高い評価も得ている。メディアアートとパフォーミングアーツの融合で注目を集め、従来の“演劇”という概念を超えた新しい挑戦をし続けている。東京2020パラリンピック開会式の演出を担当した。
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